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時刻は夜中。
そもそも、うたた寝しているところを起こされたのだ。精神的な疲れもあって、龍之介はもう休みたかった。
「その話はまた今度な。おまえもう帰れ」
「やだ」
「おまえが帰らなきゃ寝られねえじゃねーか」
「一緒に寝ればいいじゃん」
「は? やだよ」
龍之介の家には客用の布団は無い。誰かを泊める予定など無いからだ。普段使ってる寝室のベッドには自分以外誰も寝たことはない。
「追い返したらまた騒ぐぞ」
「……おまえホントふざけんなよ」
無理に部屋から出せば再びマンションの通路で騒がれてしまう。先ほど既に近隣の住民に迷惑を掛けたばかりだ。また騒ぎを起こせば確実に住みづらくなる。
拒否するという選択肢を封じられ、龍之介は謙太を睨みつけた。
しかし、だんだんとどうでもよくなってきた。どうせ追い出すつもりなのだ。謙太が根を上げて逃げ出すまで付き合ってやってもいいかと思い始めていた。
眠くて正常な思考が出来なくなっていただけかもしれないし、今度こそ信じてみたいと思ったからかもしれない。
「……わかったよ、今日は泊まってけ。言っとくけど、おまえに貸す服なんかないぞ」
「大丈夫。リュウが持たせてくれた着替えがあるから」
そう言って謙太はカバンを軽く叩いた。
金曜の朝、土日二日分の着替えを持たせていたことを思い出し、龍之介は準備の良過ぎる過去の自分を呪った。
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