![b6f1b142-5330-4733-843c-b75582a8dfdd](https://img.estar.jp/public/user_upload/b6f1b142-5330-4733-843c-b75582a8dfdd.jpg?width=800&format=jpg)
離婚協議中、
謙太は
龍之介のマンションに転がり込んだ。
妻子と過ごした部屋で一人で生活したくないというのが表向きの理由。本当は龍之介と一緒にいたかっただけ。押せば最後には承諾してくれる龍之介の甘さにつけ込んだ形での同居。
そんな風に始まった共同生活は意外と快適だった。
「家賃いくら払えばいい?」
「要らん」
龍之介はこのマンションの部屋を元々貯めていた結婚資金と
眞耶の親から無理やり渡された手切れ金で一括購入している。半ばヤケクソで全財産突っ込んだのだ。
故に月々の家賃支払いは無く、管理費と修繕積立金のみ。
「じゃ、食費と光熱費だけ頼む」
「ん」
金の話はこれで終わった。
そもそも龍之介は謙太がここに長居するとは微塵も思っていない。
寧花や
陽色との別れの傷が癒えたら勝手に出て行くだろうと予想していた。
今はただ独りで寂しい気持ちを友人に埋めてもらっているだけ。そう軽く考えていた。
しかし、謙太に出て行く気はなかった。
「今朝ゴミ出し行ったら管理人さんに会ってさぁ、つい話し込んじゃって電車一本乗り遅れた」
「何をそんなに話すことがあんだよ」
「リュウんちに住むことになったから挨拶。そしたら届け出が要るからって言われて、週末に手続きしに行く約束した」
「ふーん……、……は???」
同居人が増える場合はその旨を申告しなくてはならない。週に一日二日程度ならしなくてもいい場合もあるが、ずっと暮らす予定ならきちんと手続きをする決まりだ。
謙太との暮らしは一時的なものだと考えていた龍之介には、「管理人に申告する」という考えすらなかった。
「リュウも一緒に来てほしーんだけど。いい?」
「あ、ああ……分かった」
じわじわと外堀を埋められていくようで、龍之介はやや引いた。
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