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第6話・意図せぬペアルック
「着替えとか全部貸すから帰るなよ!」
「……わかったよ」
「客用布団もあるから!」
「わかったって」
着替えを取りにいこうとしただけでこれだ。
幼い子どもと二人きりにされるのは、ほんの僅かな時間でも不安らしい。確かに、これまでほとんど育児に関わっていなかったのだから仕方がないと言える。
「リュウ、早く上がれよ! 頼むから!」
「風呂くらいゆっくり入らせろ!!」
龍之介が風呂に入る時もこの反応である。
普段残業や接待で帰宅が遅いから、陽色を風呂に入れたり寧花が風呂に入っている間に陽色の相手をするといった経験もないのだろう。
「なんでこんなことに……」
このマンションに来るのは今日で二回目。
浴室に入るのは初めてだ。
まさか泊まる羽目になるとは予想もしていなかったため、龍之介は湯船に浸かりながらボヤいた。
「……あーあ」
綺麗な奥さんと可愛い子どもがいて
幸せにやってると思っていたのに。
そう思ったから連絡を絶っていたのに。
龍之介は胸の内に湧き上がる感情に気付き、無理やり抑えつけた。
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