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主人の尻尾はそのままちぎれてどこかに飛んでいってしまうのではないかというくらい、ものすごい勢いで左右に振られていた。そう言われて犬はハッと自分の尻尾を見て慌ててそれをどうにかしようとするが、自分の尻尾に届くわけないのでその場でぐるぐると凄まじい勢いで回転する。
「いや、違うんだこれは! お、俺は相手に対して警戒心を抱くとだな、しっぽを振る癖がある!」
全く説得力のない光景ではあるがとりあえずそのままずっと見ていると。
「うげええ、め、目が回った……気持ち悪い、吐きそう」
その場にバタンと倒れこみ、本当に「ウッ」としゃっくりのようなものをあげる。
「僕の目から見ても相当な速さで回っていましたから」
失礼しますと声をかけてから背中をさすっている。
「できれば腹を……」
「あ、はい」
毛並みに沿ってしばらく撫でていると主人はようやくのそりと起き上がる。尻尾は完全に動かなくなっていて、ついでに耳もペタンとなっている。
「クソ、格好悪い。せっかくバシッと決めたのに。さっきよりクラクラしてきた」
「そこまで決まってなかったですけど」
「嘘だろ、かっこよくなかった?」
「控えめに言って三流のチンピラみたいでした」
ガーン、そんな効果音でも聞こえてきそうな位に主人は目に見えて落ち込んでいる。がっくりと首も下がっている。嘘でもいいからかっこいいと言えばよかったんだろうか、いやでもあれ完全にただの悪人で金よこせってたかってくる連中と全く同じだったよな、路地裏とかでよく絡まれたっけ。しょっぱい思い出とともにそんなことを考えていると、扉から一人の女性が入ってきた。
「ごめんなさい、本当は私が立ち会って二人を合わせる予定だったんですけど。少し遅れましたが……何してるんですか」
部下を前にしてショボーンとしている犬に向かって施設の女性が声をかける。その声にはっとした様子で慌てて立ち上がった。
「遅えよ! 初対面で滑ったじゃねえか!」
「私が遅れたことと貴方が滑った事は関係ないでしょう。それよりも音声レベル何勝手に下げてるんですか、声帯にあわないレベルに設定すると喉痛めるって言ってるでしょ」
そう言いながら女性が一歩足を踏み出すと慌てて逃げようとする。それを見逃さなかった女性はサウザンドに声をかけた。
「あ、ちょっとそこの犬捕まえてください。尻尾踏んずけていいので」
「さすがにそれはちょっと」
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