主従

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主従

「おい聞いたかよ、サウザンドの主。犬だってよ」 「聞いた聞いた、笑えるんだけど。ま、落ちこぼれのクズで何の役にも立たない奴にふさわしいんじゃないかな。よりにもよって獣とか、似合いすぎてお祝いでもしてやりたい気分だ」 「仲良く犬小屋で暮らせばいいのにね」 「ぷ、っふふ、ちょっとやめてよ想像しちゃったじゃん!」  そこら中からそんな嘲笑の声が聞こえてくる。誰もがサウザンドが通りかかるとチラチラと見てクスクスと笑っている。  サーク国には国が推奨する討伐隊の仕組みがある。モンスターが数多く跋扈するこの世、しかもサーク国は周囲が魔の森と呼ばれる土地自体に魔力を含んだ森に囲まれている。そのため常にモンスターの脅威にさらされているような状況だ。しかしそれが他国からの侵入を防ぎ戦争を防いでいるため無暗に森を焼き払うことができない。その結果モンスターを討伐する仕組みができあがったのだ。  魔術が使える魔術師は今やエリート中のエリート、完全に親から子へ受け継ぐ力なので一般市民が何らかの力を持って討伐するにはまず二つの試験に合格しなければならない。  一つは本人が何の属性なのかを調べ、ある一定以上のレベルになること。これは魔力と違い特技だったり生まれつき持っている血筋、人には持っていないような能力だったりと様々だ。新たな力を得るために施術も行われるようになった。リハビリと過酷な訓練というリスクが伴うがそれを乗り越えれば絶大な力を手に入れることもできる。  金と時間がかかるその方法をやるのはトップを目指す者だけで、一般人がやるのは自分が本来持っている能力を努力で伸ばすことだ、それを伸ばせば討伐隊の最低限のルールをクリアできる。  二つ目は自分の「主人」を定めること。リーダーという意味ではない。数が少なくなってしまった「精霊」の血を引くもの、精霊から愛されその力の一部を預けられているものがいわゆる上級国民だ。彼らは魔法とはまた違う特殊な能力を持っており、攻撃や破壊に特化した魔法と違って生命力を整える能力を持っている。怪我の回復、病気を治し、川の氾濫や山火事などの自然現象もある程度コントロールすることができる。命の気配に敏感なのでモンスターの気配を察知できる。戦うのは部下、主人は回復役だ。
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