ある、春の日に

3/4
前へ
/7ページ
次へ
『それで、Cのタロットを選んでくれた人。お相手さんの、好きなタイプというのはー……』  タ、タロット占い……?!  寝息と同じくらいひっそりと、イヤホンは相性占いらしき動画の、診断結果を流し続ける。  女の子すぎるだろ、村野井! 「……ん、はいたくん」  返事をしたかと、思った。  元々動かせない身体なのに俺は、すうすうとよく眠る姿に、胸が締めつけられている気がした。 (こんな風に呼ばれたから、俺、ここに来たのかな)  下の名前、ゆうすけ を口にされなくてよかったと思った。同じ名前は他のクラスにも何人かいるし。  兄キだらけの中で育った俺が、高校入って、生まれて初めて目が離せなくなった女子が、村野井で。  スマホの連絡先をどうにか交換した時も、話を終わらせたくなくて、 『俺を呼べ! いや、いつでも呼んで!!』  全然かっこいい、やさしい言い回しができなくて。  困った時とか、  なんか切ない時とか、  とにかく俺のことを呼び出していいって、言い訳みたいに付け足した。  ぬいぐるみだってそうだった。  本屋に寄って帰るっていう村野井に、無理やり用事をつくった俺は、ついていった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加