ある、春の日に

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 ゲーセン前のUFOキャッチャーで、偶然二人、足を止めたから。 『得意なんだ!』と適当なことを言って、すごく焦りつつ数百円で無事、つり上げた。  人気のキャラクターを抱いて、ありがとうと伝えてくれた時の笑顔が忘れられなくて。  自分の分も、と思い、次の日、今度は大出費して、同じ物を手に入れた。  宿題、君にかっこ悪いところを見せたくなく、解けずに家で頭を抱えていたはずが、気づけばここにいたわけだけど。  贈った物を、今、村野井が握りしめて眠りについているなんて……――  手ごと、寝返りをうったはずみで、俺の身体はより前に傾く。  視界のカーテンのすき間に、はっきりと映った白い光。 (満月)  声にはならなかったけど、自然と口をついた。  月の魔法、ただのいじわるだったとしても、終わらないでくれ、夜、と願った。  目が覚めたら、何もかも元通りの朝だったとしても  この晩の距離を、忘れずにいたいと強く感じた。 ・・・・・・・・・・・・・・  お母さんに話してもきっと、『寝ぼけてたんでしょ、ゆず』って言われるのがオチだろうけど。 (どうしよう。うわあ。すごいことが起きてる)  そばで寝そべっている、拝田(はいた)くんの姿を、私はただ見下ろしていた。
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