ある、初夏の日に

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『じゃあ私も、私の名前も、必要な時に呼んで。ね?』  拝田くんが、いつでも呼び出していいと言ってくれた、すぐあと。  おあいこって気持ちもあったけれど、私も役立てる瞬間があるなら、と思って、呼んでほしいと笑って伝えた。  クラスいち努力家で、親切な拝田くん。  街なかで私が気になるぬいぐるみを見つけた時も、真剣にゲームと向き合う姿が目に残った。 (夢かもしれない。これは、ほんとは知ったらいけない、夜なのかも)  だとしても。  男の子とあまり触れ合ってこなかった私でも、彼の中に、少しでも根ざす存在になれているのかな……  ……俺を呼べ! いや、いつでも呼んで!!  困った時とか、  なんか切ない時とか、  とにかく俺のことを呼び出していいから……  すべての言葉に必死だった表情が、私の頭の中によみがえる。 「拝田(はいた) 勇輔(ゆうすけ)くん」  声にはならなかった。それでも私は凛とした気持ちで、安らかな寝顔を見つめる。  空にはまだ、まあるくまぶしい月が浮かぶ。窓の外から強烈な光のすじとなって、私を後押ししてくれている。  陽が昇り、学校に出かける時間が待ち遠しくなってきた。  お互いぎこちなくても、どれほど赤くなっても  素直な気持ちを言葉にして、花束みたいにして、もっとたくさん伝えたり、渡したりしていけたらいいな。  心の底からそう思えた、素敵な、素敵な夜だった。  ~おわり~
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