春夫の場合

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「ばかにするなよ」と気が付く彼は言っていた。言われた同級生の娘は口を開けたまま訳がわからないらしく、黙って彼の顔を見ていた。 「変な奴」と言って離れて行った。  失敗したな、と彼は思った。彼は別に声をかけてくれた娘に敵意を持っている訳ではなかった。むしろ好意的な気持ちを持っていたのだったが口をついて言ってしまった。けっこう可愛い娘だったのに、と彼は後悔した。  それとは別の気になる娘の名前は山口という名前だと知った。ずいぶん離れた教室にいた。山口か。なぜか交際したいという妄想が彼に起きた。  これは妄想なのだという自覚はあったがそれはふくらみ続けた。春夫の心の中では山口という名前の娘は恋人だった。彼は妄想をふくらまし続けた。それを危ないということはわかっていたが、我慢できなかった。危ないと変え自身も思っていた。 「今度山口のアルバイト先に行こうかな?」と話している男子がいた。「アルバイトで制服に着替える時に男子と女子は一緒に着替えるんだってよ。下着姿見ることできるらしい」と言っていた。「山口の体見ることできるの?」「そうらしい」「それはいいな」そんな話をしていた少しぐれた男子の同級生はいた。 「悪人だな」と春夫は心の中で言った。彼はその時山口にときめいているのに気が付いた。まだ話したこともないのに一方的に恋をしているような気はした。 「どうせ無理だな」と彼は早くも諦めていた。「あんな美形は男ならいくらでもいるだろう」と考えていた。 「春夫」と朝登校した時に戸野に声をかけられた。彼はぐれていたが正義感が強かったので同級生に信頼されていた。 「何?」 「何だよ、変だぞ」戸野は言った。春夫は意味は分からないので黙っていたが戸野は笑っていたので一緒に笑った。 「彼女か?」一人で春夫は声を出したが、誰も彼の姿を見なかった。
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