春夫の場合

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 その日の授業は普段通りだった。ということ春夫にとって都合のいいことだった。春夫は勉強できればいいのだ。彼にとって学校は友達とともつい合うが基本的に学業の場なのだ。彼は学業の場、と言う言葉の意味を知らなかった。それなのにそんなことを考えていた。  昼休みに彼は弁当を食べた。毎日うまい弁当を母親は作ってくれたので感謝していた。母親は今は専業主婦だが元は青果市場でが働いていた。独身時代は仕事熱心だったと父親は言っていた。父親は自動車整備工場で経理の仕事をしていた。  友達と二人で弁当を食っていると何か不思議な気分だった。どうしてこんなにいい生活ができるのだろうかということを考えていた。春夫はまだ仕事をしたことはないのに昼飯の弁当を食えた。仕事をしていても食事をできない人はこの世の中には多くいる。この矛盾は何だ、と彼は考えていた。でも高校を卒業したら進学するのだろうか? 彼はあまり学力に自信はなかった。大学に進学することはできるのだろうか? 進学するのは専門学校でもいい、と彼は考えはじめた。  友達は生物の授業の話をするので春夫はその友達と一緒に弁当を食べるのはいやだった。でも仕方がなかったのだ。彼の友達は少なかったがいい友達はいた。友達との仲を壊すのは嫌だったし、何もこ壊したくなかった。友達と話しながら昼飯を食べて笑っていた。食べ終わりカードゲームをはじめた。 「春夫は勉強できるんだろ?」と同じクラスの男子は声をかけてきた。 「あんまりできない」と答えたが実際にそんなに優秀ではなかった。  春夫はテストで落第点は取らなかった。そんなことを考えていると気になる娘のことも忘れているのに気が付いた。あまり恋のようなことばかり考えていられないのだ。彼はあまり恋に興味はなかったが鯉の刺身を食いたくなった。鯉の刺身か。いいな。食ってみたいなと思いこんでいたらカードゲームに負けていた。鯉の刺身のことをか考えている間に負けていた。彼は友達に笑われたが異性との恋より鯉の刺身のほうが重要だったのだ。さらに友達との関係のほうが大切だった。  でも恋もいいなと彼は思ったが友達たちと一緒に過ごすことのほうが気分がよかった。恋は悩んでしまうのであまりしたくなった。 「何か悩み事はあるのか?」と友達に聞かれたがあいまいに答えた。 「悩み事だらけだよ」と答えたが恋をしていることは言えなかった。異性への恋や鯉の刺身のことばかり考えていると頭がおかしくなりそうだというか、すでに彼はおかしくなっているような気はした。  彼は友達と話して笑い合っていた。
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