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1.プロローグ(ジダン)
「――では、判決を言い渡す」
雲一つない晴天。国立公園の広大な敷地を埋め尽くす花の香りが、春の暖かな風に乗ってくる。
公園の中央に位置する館の2階バルコニーから、屋外の石畳広場の壇上にいるお嬢様を、見下ろす男がいた。
今まさに、ラゼレット国王であるリアム・エルグランド陛下により、お嬢様への判決が下されようとしている。
黒い長髪は緩やかな波のようにうねり、吊り目気味の鋭い眼光の中に光る、エメラルドの瞳。一見して、男前に見える陛下。しかし、国民から歴代最強の冷徹さを持つと言われる評判が、彼に対して近寄り難い印象を持たせる。
お嬢様は、肌が透き通るレースに、肩とデコルテが大きく開いた純白のウェディングドレスを身に纏い、覚悟を決めたのか清々しく凛とした表情で、判決を待っている――。
本来なら今日、その華やかな姿でラファエル公子と、その壇上で婚姻の宣誓をしていたはずだった――。
とにかく……これで全てが決まる。陛下の事情聴取で、出来る限りのことは主張した。後は陛下の裁量に賭けるしかない。
こんな所で、お嬢様を失いたくない。
俺にはまだ、伝えなきゃいけないことがある。自分ですら気付いていなかった……本当の気持ちを。
野原でのあの日。お嬢様は俺から『あの言葉』を聞きたかったはずなんだ。その時2人で交わした約束も……叶えてあげたいんだ――。
手を合わせ、眼を瞑り、必死に祈り願った。
お嬢様が無事なら、この世界がどうなろうと構わない。頼む、陛下……。
「被告人、ユリア・シャンドラーに――」
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