第2章:この気持ちに名前を付けるなら

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「愛してるって、恋愛対象の相手に対して持つ感情のこと、ですよね」 「ペッパー、それ、データべースに登録されたの読み上げただけじゃん」 「羨ましいですね、陸。そんな感情を持つことができるなんて、人間そのものですよ」 「待ってください。僕の身体にそんな機能があるとは思えないですけど」  自分が拓也を好きだなんて、思ったことがない。もちろんすべての人類の中で、拓也に好印象を持っていることは間違いないけれど、それは自分を作った人であるという特殊な存在だからだと考えている。  いつだってそばにいたい、できることなら触れたい、この人になら何をされてもいい、と思うこと、は確かに観月にしか抱かない感情ではあるけれど。 「あれ、りっきゅん顔赤い?」 「えっ、いや、きっと気温が上昇したのでは?」 「私達は特に暑さを感じませんが?」 「そ、そうですか?」 「陸先輩、それはもしかして照れているのでは?」 「へ、へぇ?」  ルイに思わぬ指摘を受けて、おかしな声が出てしまう。ちゃんとした返事ができるはずなのに、焦りが重なり誤動作を起こす。こんなこと初めてだ。もし本当に、自分の中に、恋愛感情を抱く機能があったとしたら、きっと間違いなく拓也に対して発動していただろうと思う。逆にその機能がなくてよかった。そんな気持ちを知られたくない。たとえ感情を持っていたとしても、アンドロイドが恋をするはずない。そもそも人間とアンドロイドなんて、主従関係で成り立っている。  それに比べて恋とか愛は、対等な関係でないと成り立たない。だから、自分が観月拓也を愛せるはずもないし、愛されるはずもない。アンドロイドと人間の恋なんて不毛な恋でしかないのだから。 「りっきゅん、いっぱい考えちゃった?」  急に黙った陸にアイは心配そうに声をかけた。 「いや、アンドロイドと人間が愛し合える世の中がきたらいいなってちょっと思いました」  周囲のアンドロイドが顔を見合わせた。 「キングが思い描いている、アンドロイドと人間の共存ってそういうことかもしれないですね」 「陸先輩は、その第一人者になってください」 「そ、それは無理ですよ。僕にはそんな機能はないですし」 「いいんだよ、りっきゅん。好きでいるだけなら自由だよ!」 「ありがとう、アイ」 「アイは、りっきゅん大好き!」 「うわっ」  アイに突然、抱きしめられ、周囲のアンドロイドがそれを見て笑う。なんて楽しい時間なんだろうと思う。いつまでもこうして彼らと笑っていられたら、どんなにいいだろう。
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