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第3章:ハダリ―の本当の狙い
観月の研究室は休憩室とは違う棟にあり、少し離れたところにある個室だ。近づくと研究室の扉が少し開いていて、中から話し声がきこえていた。
誰か来ているのか、開いた扉の隙間をのぞくと、そこには二人の護衛を背後に従え、キングが観月と立ち話をしていた。
「これは由々しきことです。まさか、翼が警察の手に渡るなんて信じられません」
珍しくキングの口調が厳しい。普段、人間にもアンドロイドにも平等に優しく温和なキングのあんな言い方は初めて聞く。
「だから最初から僕は反対しました。翼を働かせ続けたのは貴方ですよ、キング。それに火災なんて非常事態です。改造アンドロイドを回収するなんて難しい」
「貴方の技術が甘いんじゃないですか、これからは遠隔で爆破させる機能を装備するようにしてください」
「証拠隠滅のために、ですか? これ以上、アンドロイドの負担が増える設定はお薦めしません」
「組織の存続のためですよ。貴方だって足がつきたくないでしょう、ナイトジャック」
そのキングの言葉に観月は黙った。要するに、観月が不正改造したアンドロイドが地上の警察に回収されて問題になっているという話なのだろう。
「そもそもオークションで取引されたアンドロイドは地上に出さないという前提だったはずです。例外は空や翼だけじゃないのではないですか?」
観月の口から空という言葉を聞き、驚く。ということは、観月は空を改造しているということになる。盗まれたはずの空をどうして観月が診ているのか、そしてオークションとは、なんなのか。
「それについては調査させてます。ただ、多額の資金を提供くださる資本主の皆様に、強く言えないのは貴方も理解してますよね?」
「キング、もうこういう形の資金集めはやめませんか。きちんと地上でアンドロイド救済のための資金を集めるべきです」
「貴方はまだわかっていないようですね。日本で投棄されたアンドロイドが海外で傭兵として活躍している例もあるのですよ。我々はアンドロイドに活躍の場を与えている。そのための工場なのです」
――傭兵。
それは以前聞いたことがあった。同じ型のアンドロイドが廃棄された場合は武器を搭載したアンドロイドに改造し輸出されるという噂がある。それは本当だったのだ。
慈善事業だと思っていたアンドロイドの修復は戦争の傭兵で使われているかもしれない。そう思うと、陸はゾッとした。仲間のアンドロイドたちが人を殺しているかもしれないだなんて信じられない。それに観月が加担しているかもしれないなんて、考えたくない。
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