プロローグ

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 休日の昼下がり、土井光は以前回収した不正改造されたアンドロイド『翼』の部品を広げ、モニターに映し出された解析結果を眺めていた。 「またそれを見てるのか」  邪魔にならない場所にコーヒーの入ったマグカップが置かれ、直人が部屋に入ってきたことに気づく。実家を改造した光の住居兼、研究所であるここに毎日のように訪れる親友、乾直人は光と同じくアンドロイド技師だ。そんな彼にこの光景を呆られるのは初めてのことではない。 「あれからずっと考えてた」 「何をだ?」  光はかけていたメガネを外し、マグカップのコーヒーに口をつけ、ため息をついた。 「マスター登録不可、寿命コード解除、整備担当者コードブランク、それぞれの設定も難しいのに、これを一体のアンドロイドにすべて施すなんてその辺のアンドロイド技師にはできない」 「確かにそうだが、今の時代、うちのトニーエリクトン社だけがアンドロイドを作っているわけじゃない」  あくまでも冷静に直人は相槌を返す。 「だからだ。これはトニーエリクトン社の前身である、トニー社特有の設定で、親父が遺した研究資料でしか見たことがない特殊な方法だ。できる人間は限られてる。父さん以外でこんなことができるのは、あと一人しか思い浮かばない」 「拓也さん、か」  直人の言葉に光は再び、ため息をついた。  二人が『拓也さん』と親しげに呼ぶ相手とはトニーエリクトン社に入社した際、一番と言っていいほど世話になったアンドロイド技師の観月拓也のことだ。  感情を持つアンドロイドを初めて開発した博士、土井光之を父に持つ光は、アンドロイド技師という仕事に対して後ろ向きだった。大学こそ、ロボット工学を専攻していたが、そのままアンドロイドとは無縁な人生を送りたいとさえ考えていた。  しかしそれを幼馴染でもある乾直人は許してはくれなかった。光の書類をトニーエリクトン社に送り、同様に書類選考に合格していた直人と、面接会場に向かい、受付で名前を名乗った時点で光だけ内定を確約された。その後、直人も合格し、二人は晴れて同期入社となった。当然、周囲からは土井光はコネ入社と囃し立てられ、ますます嫌悪感を持ってしまった光だったが、そんな光をアンドロイド技師として覚醒させ、社会人として育てたのは観月と言っても過言ではない。
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