第3章:ハダリ―の本当の狙い

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 観月は部屋の灯りをつけることなく、向き直り、部屋の天井の隅を指さした。そこには監視カメラらしきレンズがこちらを向いていた。ちなみにこの地下の組織にはあらゆるところに監視カメラと盗聴マイクが仕掛けられていると聞いたことがある。このような居住区だとカメラが確認できそうな位置に設置されているのだろう。  カメラの位置を認識した陸の反応を見て、観月はカメラに背を向けて、陸との距離を詰めてきた。 「拓也?」  さきほど抱きしめられたのもそうだが、普段、こんなに観月が陸に近づいてくることなんてない。反応に困りつつ、動かないでいると、観月は再び陸の体を抱きしめた。  何があったか、わからなかった。さきほどは、無事だったことが嬉しく思わず抱き合ってしまったが改めて二人の身体が触れ合うと心拍数がトクトクトクトクと波打つ感覚がある。これはなんだ、まるで過剰に運動をした時の動悸のようなものか。押し付けられた拓也の白衣の胸元からオイルの匂いがする。その匂いは心地よくて、ずっと嗅いでいたくなる。  ただ、どうしてこんな風に観月が突然陸を抱きしめてきたのか、わからない。カメラに背を向けているということは何かを陸にだけ伝えたいということだろう。それは、もしかして、さきほどの話とリンクしているのだろうか。  観月は陸を抱きしめていた腕を緩め、そっと陸の頬を両手で包むように触れて、顔を近づけて、陸の額に観月が額を重ねた。これはアンドロイド同士が記憶の共有をするときに額同士を合わせるというのがある。当然、人間の観月とは何も起こるはずがない。ではどうして観月はこんなことを。 『陸』  脳内で観月に呼ばれたような気がして、はっとする。おかしい。こんなことあるはずがないのに。 『ボクノ、ネガイヲ、キミガ、カナエテ』  今度は、はっきりと言葉が流れ込んできた。アンドロイドとの交信はもっと映像と音声がクリアに聞こえるのだが、ポツポツと言葉の羅列が脳内に入り込んできた。ただ難しい言葉は無理なのか、それ以外は雑音でしかない。  シャイな観月は意味なく陸を抱いたりはしないだろう。きっとこの行動に意味がある。そして流れ込んできた言葉と、さきほど聞いてしまったことについて何も説明がない。きっと観月は何か、考えがある。カメラやマイクに残せないから言葉で伝えられない。もしかして観月の願いは、さきほどの破壊活動に関することだとしたら?  いや、どんな内容だってかまわない。 「僕は、拓也の願いを絶対に叶えます」  陸がそういうと、目の前の観月の目元が柔らかく緩んだ。 ――あ。  その優しい表情には見覚えがあった。出会った頃、まだ高校生だった人見知りの観月拓也の顔だ。
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