第3章:ハダリ―の本当の狙い

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「陸」  優しく頭を撫でてくれたと思ったら、陸の頭を優しく引き寄せ、次の瞬間、観月の唇が陸の唇に触れた。 ――キス?  この感覚を陸は覚えていた。過去に陸は観月とキスをしている。一度目は感度実験の時、いわゆる擬似セックスをしたときだ。お互いの歯がごつんとぶつかって初々しかった、しかし、今のキスはあのときのキスとは少し違う。 ――それ以外にもどこかで、キスをしてる?  はっきりと覚えているのは、その実験のときのキスで、あともう一度どこかでしたキスを思い出せない。記録に残ってないのに、感触は覚えている。そんな曖昧なことがあるのだろうか。  とくんとくんと胸が高鳴る。キスとは、どんなときにするものなのだろう。愛しい者同士が気持ちを確かめ合うこと、なら、どうして観月はキスをしてきたのか。アンドロイドである自分にそんな感情は持たないはずだ。では、実験なのか、事前告知なく、実験なんてするだろうか。 『舌の侵入を確認』  ぬる、と観月の舌が陸の唇をこじあけ、忍んでくる。この舌に応じるか、否か。当然、イエスだ。拒絶する理由がない。観月にはすべてを渡してもいい。誰にでもなのか、いや、その答えはノーだ。観月だけにしかしたくない。どうして観月だけにはよいのか、担当技師だからか、それはイエス。いや、それでは不十分すぎる。やはり観月について考えると、陸の中では、データ不十分となり、解答が導き出せない。  観月の舌に、陸も自分の舌を絡ませる。ふ、と吐息が漏れ、神経が逆流するような感覚。体温の上昇。呼吸の乱れ。快楽神経が刺激され、次のフェーズの準備段階に移行する。 『キスは気持ちいい』  身体がまっすぐ支えられなくなってくる。このまますべて観月へ委ねてしまいたい。背中に両腕を回そうとしたそのときだった。  カサっと口内に小さな紙片が、運ばれた。それは折りたたまれた紙のようなもので、手で渡す記録を残したくない。それで観月は陸とキスをすることを選んだ。さきほどから解答のでなかった、キスの理由が登録された。  重ねていた唇が離れた瞬間、キーンと電子音が脳内に響く。自身の電源がシャットダウンされたのを知る。当然、目の前の男の仕業だろう。  このままだと視界も失われていく。暗がりで目が慣れ始め、観月の顔の表情がはっきりとわかる。観月の瞳をまっすぐ見つめたその瞬間、『頼んだぞ』と、言われた気がした。  きっと次に陸が目を覚ました時、おそらく何かが始まる。観月の願いを叶えるため、渡された紙片に書かれているのは指示か、暗号か、とにかくそれを元に、陸は観月の願いを叶えるために、この身を捧げる。それだけは理解していた。
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