第4章:貴方の願いを叶えるために

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第4章:貴方の願いを叶えるために

 目が覚めたとき、陸は身体が折り曲げられ、深い闇の中に居た。すぐに周囲の電波状況を探るが、どうやらまだ地下のようで、電波がよくない。外から水の流れる音がするので、おそらく下水か何かの近くだろう。身体は拘束されていないとわかったので、周囲に触れていくと、手に伝わる感覚から成分を分析すると、どうやらドラム缶に入れられているようだった。  天井だと思われるふたを両手で押し上げてみると、バコンと音を立てて開く。予想通り、下水が中心に流れる地下道の脇に、ドラム缶は置かれていたようだ。きっと電源を落とした陸をドラム缶に入れて、アンドロイドたちが地上に繋がる地下道まで運んだのだろう。そして自分は十二時間後に電源が入るようにタイマーがセットされていた。 「よいしょ」  陸はドラム缶の中から這い出る。身体はどこも傷はなく、いつもの黒いコスチュームに、黒のシューズ、で動くのも問題ない。おもむろに自分の口内に指を入れ、口移された紙片を取り出し、小さく四つに折られたそれを丁寧に開く。その中にはボールペンで殴り書きされた、人の名前が載っていた。 「土井光……」  脳内のデータベースで検索するがヒットしないが、これは想定内だった。あえてデータベースからは削除されているのだろう。さきほど稼働時のセルフチェックでデータベースと記録の操作があったことがログに残っていたのと、地下にいたときは設定されていた自動ログ送信が停止されている。  ここから先の陸が見たもの、聞いたものは地下の組織に送信されないというのが観月の算段のはずだ。 「土井という苗字なら博士の近親者だろうか」  確か、土井博士には子供がいて、陸も会ったことがある。その記憶は断片的にあるが、名前がヒットしないというのは意図的に消されている。土井光は土井博士の息子で間違いないだろう。 「とにかく行くしかない」  陸は自分の右手人差し指を唾液で濡らし、頭上に掲げる。風向きを確認し、風上に向かって歩き始めた。この先に繋がる地上に出て、土井光という人物に接触する。それがひとまずの目標と定め、陸は歩き出した。
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