49人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
「誰だ?」
背後から声をかけられ、陸は思わず振り向いた。そこには、ビニール袋を手に下げ、ラフなジャージ姿で立っている男性がいた。
「あ……っ」
ここの家主だろうか。逃げたほうがいいと判断されたが、敵ではない可能性に賭けたい陸は動きを止める。
「そのコスチューム……おまえ、まさか、陸か?」
名前を即当てられ、まずいと思った。一目見て、自分のことがわかるなんて、ただものではない。
「待て、回避行動を取るな。おまえに危害を加えることはしない」
その言葉に、陸は足を止める。回避行動というアンドロイド特有の行動用語、間違いない。この人はアンドロイドの開発知識のある人間だ。
「貴方は……」
「俺は、土井光。今はフリーだが、アンドロイド技師だ」
「土井、光……」
その名前を聞いた瞬間、陸は足元から崩れるように、座り込んだ。
「おい、陸!」
土井光と名乗る男は慌てて駆け寄ってきた。
「充電、なくなりそうなのか。他に損傷はないか?」
「あり……ません」
「わかった。よくここまで頑張ったな。あとは任せろ。悪いようにはしない」
「お願いしま……す。目が覚めたらたくさん伝えたい……ことが、あります」
「わかった。大丈夫だから今は休め」
「拓也……土井光に会えました……拓也…」
身体の中であらゆる回路がシャットダウンしていく中で、それでもうわごとのように観月の名前を呼び続け、陸の意識は消えた。
最初のコメントを投稿しよう!