第5章:幾数年の時を超えて

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 陸は、地下のことをすべて二人に話した。まず地下で行われていること、そして観月と他にも数人のアンドロイド技師がいること。地下の工場で働きながらに暮らしている人々はハダリーは慈善事業団体だと信じていていること。しかし実際は不正改造したアンドロイドをオークションに出し、そのお金が資金源になっていることや、海外で傭兵として輸出されていることなど、陸が最近、初めて知った事実も伝えた。  そして一番衝撃だったのが、観月が改造したと思われる、翼と呼ばれていたアンドロイドが警察の手に渡ったことにより、予定を繰り上げて三日後にテロを決行することになったこと。そのテロとはアンドロイドによる無差別な破壊活動であることだ。 「驚いたな。光が読んでたネット記事そのままじゃないか」 「陸、どうして拓也さんは関わっているんだ?」 「それは僕にもわかりません。ただ、拓也は、キングと同調はしていないようです。翼というアンドロイドを働かせ続けていたことにも抗議していましたし、テロ行為は意味のないことだとキングを説得していました」 「拓也さんは、ハダリ―の首謀者というわけではないと思っていいか?」 「はい。拓也はアンドロイドの将来を憂いています」 「よかった……」  光は、心から安堵した表情を見せた。 「陸の話を聞く限り、その指令プログラムというのを作動させてテロを実行するんだろうな」 「ああ、おそらく今、すべてのアンドロイドに採用されている災害時防衛プログラムの前身だろうな」 「それは、どういったものですか?」 「ああ、災害時にすべてのアンドロイドに安否確認や救急処置、避難地域などの情報を一気に送信できる仕組みだ。もともとこのプログラムの考案者は拓也さんなんだ」 「それを悪用して、破壊活動させるコードを流し込むつもりか」 「三日後って言ったな、陸」 「はい。僕は地上に出るまでに一日、そしてここで一日を費やしています。予定通りの三日後なら、もう日にちがありません」 「とにかくやれることをやろう。会社で緊急会議を開く」 「待て、会社を巻き込まないほうがいい」  立ち上がった直人を光が制した。 「だが、災害時防衛プログラムを停止できるのはトニーエリクトン社だけだ」 「おまえ、どう言って止める気だよ。あのプログラムの発動権限があるのは内閣総理大臣だぞ。ハダリ―からの正式通達でもなければ国が動くはずがない」 「じゃあ、どうするつもりだ」 「少し考える時間をくれ。陸、拓也さんは俺に何をさせたいんだ?」 「それは、僕にもわかりません」 「だよな……」 「すみません」  謝ることしかできない。陸を土井光の元に行かせた理由は、この事実を光に伝えるためだけなのだろうか。あとは光がなんとかする、だなんてそんな無責任なことを観月はしないのではないだろうか。 「光、僕の身体をもっと隅々まで診てくれませんか?」 「陸を?」 「はい。もしかしたら、僕に託されているものが他にあるかもしれません」 「そうだな、今はそれくらいしかできない」 「お願いします」  もちろん確証はない。しかし観月は唯一、陸だけをメンテナンスしている。何かを隠すとしたら、きっとこの身体の中だ。それが何かは、わからないけれど。 「俺もできることをする。とりあえず会社で出来る範囲のことをしてみる」 「直人、悪い」 「勘違いするな。俺だってアンドロイドの未来を守りたいと思ってるんだ」 「ああ、俺たちで何とかしよう」  光と直人はお互いに目を合わせ、それぞれやれることのために動き始めた。  地下から出て、メモにあった土井光に接触することまではできた。しかし、この先のことがわからない。観月も当然、テロを止めたいと思っているはずだ。そのために自分が何をすべきか、わからない。自分にできることはあと何があるのだろうか。
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