プロローグ

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 一方、観月拓也は高専の学生だった時に土井博士自らがスカウトし、開発チームに入れたという、ずば抜けた技術の持ち主で、世界からも注目を浴び『アンドロイドの父』と称される土井光之の右腕となった。その後、トニー社がアンドロイド事業から撤退したのち、トニーエリクトン社の立ち上げにも貢献し、二人が観月に出会ったとき、観月は最高責任者であるマネージャーという立場だった。そんな上の立場でありながら、観月は光と直人を自分の直属の部下として迎え、二人に開発のすべてを教えた。  はじめは渋々だった光だったが、観月のアンドロイドに対する深い愛情を知り、それ以後は開発者として開花し、数年後、開発チームのリーダーとなった。今の自分がいるのは、観月のおかげだと思っているくらいだ。 「拓也さんは十年前に失踪して以来、今では生きてるかどうか、わからない」 「いや、俺、ずっと考えてた。拓也さんは生きていると思う」 「なぜそう思う?」 「このネット記事、みてくれないか」  光が机の上に積み上げられた本の上から、プリントアウトした紙の束を直人に渡した。それは表向き、アンドロイド救済のための慈善事業団体となっている「ハダリー」についての特集記事だった。 「アンドロイドと人間の共存を目指す『ハダリー』の狙いはサイバーテロを起こし、アンドロイドに支配させようとする計画、という噂か」 「ああ。ハダリーが慈善事業としてやっているアンドロイド無償修理などの活動も、裏では廃棄になった旧型のアンドロイドを改造して闇オークションで巨額の資金を稼いでいるという噂だ」 「改造ってまさか」 「ハダリーには多くのアンドロイド技師がいて、その中に、格段に優秀なアンドロイド技師がいるらしい」 「それがまさか拓也さんだって言うんじゃないよな」  光は黙ってコーヒーを一口啜った。 「ハダリーの存在は、トニーエリクトン社だけでなく他のアンドロイド開発会社も一目置いている。膨大な予算のかかるアンドロイド修理を無償で引き受けてくれているんだからな。そんなの無償で出来るはずがないっておまえだってわかってるだろ」  直人はその言葉に黙った。
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