第6章:二人だけの秘密

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「ねえ、海の担当技師は光なの?」 「うん、そうだよ」 「海の中で、光は何番目?」 「えっ」 「おい。本人の前で、聞くなよ。一番に決まってるだろ」 「いやあ……?」  海は光から、わかりやすく目を逸らす。 「ということは、担当技師でも好感度のランキングには一応、入るんだよね」 「うん、そうだよ。光は三番目」 「待て、三番ってどういうことだ。俺の上に誰がいるんだ」  光が明らかに取り乱している。 「え、直人だけど」 「は?」 「陸、それがどうかしたの?」 「う、うーんと、光……大丈夫?」 「いいのいいの」  光が、がっくりと肩を落として明らかに落胆しているのだけれど、それはいいのだろうか。 「僕の中に拓也はランキングに入ってきてないんだ」 「そんなことある? 付き合いも一番長いんじゃないの?」 「なんていうか、足らないみたい。拓也の記録が」 「確かにそれは俺も気づいてた」  落胆していたはずの光が、むくっと起き上がった。 「陸の記憶をつかさどるレコードが、時々欠落している。ただこれは削除されたのではないんだ」 「欠落と削除は違うんですか?」 「ああ、削除ならその部分の記録が繋がるはずなんだ。たとえば、陸は投棄されそうになった日の記憶がないだろう?」 「はい、ありません」 「削除された場合は、その記憶がないことも気づかない」 「おお、なるほど」  海が納得している。 「ということは、一部分隠されている、という感じ?」 「他に、ないと自覚している記憶はあるか?」 「そうですね……」 「陸、拓也との感度実験の記録はある?」 「感度実験……」  アンドロイドと人間の疑似セックスの実験のことだ。 「え、まさか、陸の感度実験って拓也さんがやったの?」 「そうだよー」 「俺なら自分が手がけたアンドロイドとセックスなんてできないぞ」 「ボクも嫌だな、光とは」 「おい、俺のテクニックを知ったら、おまえ、俺に惚れてしまうぞ」 「光、童貞じゃないの?」 「ど、童貞じゃねーわ!」 「ないです……」 「え?」  海と光が二人で騒いでいる相手に、陸は脳内データベースを検索していた。そして、気づいた。事件のときの記録の大半が残っていない。キスをしたという感触など、部分的なことは残っているが、実際の行為の部分の記憶はほぼないのだ。
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