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「危ないっ」
ショックで崩れそうになった身体を直人が支える。
「陸、その人質が拓也さんだという確証はないが、この先に地下に続く横穴があって、もしものときは機動隊が爆破する予定らしい」
「待って、地下にもし拓也がいたら」
「突入の前に、地下に行けたらワンチャンあるんじゃねーか」
「まずい、もうすぐ午前0時になる」
「拓也!」
陸は走り出した。その横穴とやらに、爆破される前に行ければ、拓也を助け出せるのではないか、と。
「ボクも行くよ!」
「海!」
同じスピードで一緒に海が並走する。後ろの方で光と直人が叫んでいるが、自分たちには追いつけないだろう。
「待って、陸」
海が突然止まり、前方を指さした。目の前に機動隊がぐるりと何かを囲んでいて、煙が上に向かってあがっているのが見えた。
「だめだ、もう機動隊とアンドロイドが衝突してる」
人垣をかき分けて進んだ先に見た光景は、重装備の警察隊がアンドロイドたちに向かって発砲している場面だった。特殊な銃を撃ち込まれ、どんどん前へ倒れていくアンドロイドを海と陸は茫然と見ていた。地下から地上へ出てすぐに撃たれるなんて彼らは思っていたのだろうか。
「こんなことのために、彼らは……」
「陸! 海! 下がれ!」
背後から急に体を捕まれた。隣の海を光が、そして陸の身体は直人が掴んで、後ろに下げさせた。
「無茶するな! 今、連絡があった。工場ごと破壊すると爆弾を仕掛けたそうだ」
「待って、拓也はどこにいるの? 中にいるかもしれないのに!」
「陸、だめだ!」
直人だけでは陸を押さえきれないのか、光まで陸を押さえる。工業用ロボットの陸が本気を出せば二人くらい跳ね飛ばせる。けれど二人をけがさせてはいけないという防衛反応が制御している。
「陸、聞け! プログラムの発信源が地下にあるとされている。だから地下を破壊しようとしてるんだ。今、アンドロイドたちは車や建物を壊していて大騒ぎになっている。だから一刻も早く、地下を」
「そんなのだめだよ!」
陸は首を横に振った。拓也だけが全てだ。この先、何もいらない。拓也さえいてくれたらいい。
「陸、思い出せ。何か、アンドロイドたちを止める方法はないのか! 拓也さんと何か話してないか? このままだと本当に地下ごと……」
「やだ! やだよ! 僕が助けに行くから! 拓也ぁ!」
僕を作った人、僕の始まりの人、頭の中を観月拓也が駆け巡り消えていく。どんどん抜け落ちていく。
「消えちゃう……拓也が消える……」
何が起きているのか、わからなかった。ただ、あれほど脳内を占めていた人のことがだんだんと欠けていく。真っ白に近づいていく感覚になる。その瞬間、陸の中で何かがショートした。
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