プロローグ

4/5

50人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
「どこかに資金源があるってことだ」 「改造アンドロイドの闇オークションか」 「空は闇オークションでセクサロイドとして買い取られた。空が娼婦として働いていたクラブも地下に空の部品用としてアンドロイドの廃棄場があったのは何よりの証拠だ。そして翼は病気の人間が改造に改造を重ねて、首から下がアンドロイドという体になった。それにはアンドロイドの技術と医学に精通した人間じゃないと難しい」 「確か、拓也さんは医大卒だったな」 「そうだ。拓也さんは自分のことを医者だと言っていた」  以前、観月が『私は自分のことを技師だとは思っていない。彼らを治す医者だと思っている』と言っていたのを光は今でも覚えている。アンドロイドを人間と変わらない存在にしたいと考えていた父と、アンドロイド技師はアンドロイドを治す医者と同じだ、と考えていた観月に、直接一緒に仕事をすることはなかった父、土井光之と重ねて、光は強い尊敬の念を抱いたものだ。 「その優秀なアンドロイド技師のことを、裏の世界では、なんて呼ばれてるか、わかるか? 通称ナイトジャック、闇のブラックジャックだってよ。ぴったりじゃないか」  光は笑いながら頭を抱えた。  我々には優れた技術がある。しかし、それは不正改造に使われるべきものではない。事情があり、役目を終えたアンドロイドたちを再び、非合法で目覚めさせるなんて、あっていいはずがない。そんなことに観月が加担しているだなんて、考えたくもない。 「あと拓也さんについては、もうひとつ気になってることがある。拓也さんは失踪する際に、アンドロイドを一体連れていった可能性がある」 「どういう意味だ」 「拓也さんが失踪した日は、陸の溶解廃却指定日だった」 「そういえば、そうだったな」  海、空、そして陸の三シリーズのうち、陸だけは廃棄も盗難もされることなく唯一、トニーエリクトン社でシリーズのリコールからしばらく電源を切られた状態で保管されていた。記録には十五年後に溶解廃却された、とされている。 「俺は拓也さんが、陸を連れ出したと思ってる」 「そうか。陸の担当技師は拓也さんだったか」 「陸を溶解廃棄したことにして連れ出し、そのまま姿を消した。トニーエリクトン社の開発マネージャーという地位も名誉も全部捨てて」 「拓也さんが手掛けたアンドロイドは陸だけじゃないだろう」 「いや、拓也さんは自分が作った陸を一番大事にしていた。何より、陸の保管場所を知っているのは拓也さんだけだったし、陸を誰にも触らせなかったのを覚えている」 「陸を生かすために失踪までしたと言いたいのか?」 「あくまで仮説だ。でもそれが事実としても、拓也さんがどうしてハダリーに加担しているのかは、わからない」 「光。わかってるだろうが、アンドロイド改造は違法だ。もしその憶測が本当だとしたら、地上に出た時点で逮捕だ」
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加