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「拓也さんがそんな……」
光が驚いている。
「海、その話は陸に言わないって約束したじゃないか!」
「えー、そうだっけ?」
「ほ、ほんとですか、拓也」
拓也に聞いてみるが、本人は顔を手で覆っている。
「まぁ、当時の拓也は高校生だしね。恋の悩みを聞いてあげたってわけ」
「最悪だ」
「えー、もう時効でしょ」
「陸、当時から拓也は陸のこと大好きだったからね」
「もうやめてくれ!」
珍しく拓也が取り乱している。まるで高校生の頃の拓也を見ているようだ。
「じゃあ、俺たちは退散するか。じゃあな、陸。おまえは明日退院だから、俺の家で預かるから」
「あ、ありがとうございます」
「じゃーねー! お幸せに!」
病室の外で、調子に乗るな、と光が海を叱っていたが、残された二人はそれどころじゃない。なんだか恥ずかしくなって、お互いにそっぽを向いている。
「参ったな……」
ぽつりと呟いた観月と陸は、ばち、と目が合った。
「まぁ、じゃあ、こっちおいで」
布団をまくられ、陸は素直に拓也の隣に滑り込んだ。
「悪いことしてるみたいですね」
「そうだな。でも煙草は我慢してるから大目に見てほしい」
「煙草やめれたんですか」
「長生きしないといけないなと思って」
観月は、陸をぎゅっと抱き寄せた。
「陸」
「な、なんでしょう」
観月は陸の耳元に口を寄せる。
「キスしてもいいと思う?」
「えっ、その……拓也がしたいなら僕は」
「でもキスだけじゃおさまらないかもしれない」
「それは病室なので、あまりよくないと思います……」
「じゃあやめておこうか」
「えぇっ」
思わず名残惜しそうな声を出してしまい、陸は慌てて口を塞ぐ。その様子を見たのか、観月が笑い出す。
「キスしたいなら、そう言えばいいじゃないか」
「次からはそうします」
「今じゃないの?」
「拓也、意地悪ですね」
「聞きたいよ、陸の言葉で、キスしてって」
「……キスしてください」
小さな声で囁けば、観月は陸にそっと優しいキスをした。そしてまた唇は触れて、離れて、また触れる。啄むようなキスがくすぐったくて嬉しい。
「陸は、かわいいな」
「拓也の前だけです……」
「そうだ。誰にも渡さないよ」
ぎゅっと抱きしめられ、身体中のオイルが沸騰しそうだ。これに慣れるのに、時間がかかりそうだと蒸れて煙の出そうな脳内で、陸は、必死に沈まれ沈まれと呪文のように唱えるのだった。
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