第9章:穏やかな時間

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「拓也さんがそんな……」  光が驚いている。 「海、その話は陸に言わないって約束したじゃないか!」 「えー、そうだっけ?」 「ほ、ほんとですか、拓也」  拓也に聞いてみるが、本人は顔を手で覆っている。 「まぁ、当時の拓也は高校生だしね。恋の悩みを聞いてあげたってわけ」 「最悪だ」 「えー、もう時効でしょ」 「陸、当時から拓也は陸のこと大好きだったからね」 「もうやめてくれ!」  珍しく拓也が取り乱している。まるで高校生の頃の拓也を見ているようだ。 「じゃあ、俺たちは退散するか。じゃあな、陸。おまえは明日退院だから、俺の家で預かるから」 「あ、ありがとうございます」 「じゃーねー! お幸せに!」  病室の外で、調子に乗るな、と光が海を叱っていたが、残された二人はそれどころじゃない。なんだか恥ずかしくなって、お互いにそっぽを向いている。 「参ったな……」  ぽつりと呟いた観月と陸は、ばち、と目が合った。 「まぁ、じゃあ、こっちおいで」  布団をまくられ、陸は素直に拓也の隣に滑り込んだ。 「悪いことしてるみたいですね」 「そうだな。でも煙草は我慢してるから大目に見てほしい」 「煙草やめれたんですか」 「長生きしないといけないなと思って」  観月は、陸をぎゅっと抱き寄せた。 「陸」 「な、なんでしょう」  観月は陸の耳元に口を寄せる。 「キスしてもいいと思う?」 「えっ、その……拓也がしたいなら僕は」 「でもキスだけじゃおさまらないかもしれない」 「それは病室なので、あまりよくないと思います……」 「じゃあやめておこうか」 「えぇっ」  思わず名残惜しそうな声を出してしまい、陸は慌てて口を塞ぐ。その様子を見たのか、観月が笑い出す。 「キスしたいなら、そう言えばいいじゃないか」 「次からはそうします」 「今じゃないの?」 「拓也、意地悪ですね」 「聞きたいよ、陸の言葉で、キスしてって」 「……キスしてください」  小さな声で囁けば、観月は陸にそっと優しいキスをした。そしてまた唇は触れて、離れて、また触れる。啄むようなキスがくすぐったくて嬉しい。 「陸は、かわいいな」 「拓也の前だけです……」 「そうだ。誰にも渡さないよ」  ぎゅっと抱きしめられ、身体中のオイルが沸騰しそうだ。これに慣れるのに、時間がかかりそうだと蒸れて煙の出そうな脳内で、陸は、必死に沈まれ沈まれと呪文のように唱えるのだった。
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