第9章:穏やかな時間

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 一ヶ月ほどの入院生活、陸は光の家に居候させてもらい、そこから毎日病院に通った。観月は二週間くらいで歩けるようになり、残りの二週間は普通の食事に戻り、陸は主に光の話し相手になった。しかし全ての時間を陸が独り占めできたわけではなかった。入院している間も光や直人だけでなく、トニーエリクトン社の関係者や、他にもアンドロイド開発会社の人が訪ねてきた。そのたびに観月へ現場復帰を熱望する声が多かった。  テロに少なからず加担してしまったということに観月は罪の意識を強く持っていた。実際は、強要されていた被害者なのだと周囲は声をかけるのだが、観月はそれでも、首を縦に振らなかった。 「退院おめでとうございます」 「また通院でお世話になります」 「煙草はダメですよー」 「ははは、気をつけます」  今日は退院の日、陸は挨拶をしている観月の隣に荷物を持って付き添っている。この場に陸しかいないのは、違和感があるくらいだ。今日、退院することを光は知っていて、出かける陸に「今日は帰らないんだろ?」と当たり前のように声をかけられた。  そもそも退院した後、どこに行くのか、という質問に、観月は「内緒」と言って教えてくれなかった。 「拓也?」 「んー?」  看護婦や医者に見送られて病院を出たあと、呼んであった無人タクシーで行き先を入力している観月に声をかける。 「もうそろそろどこに行くか、教えてくれてもいいんじゃないですか?」 「ああ、僕の家だよ」 「え、拓也の家があるんですか?」 「地下じゃ、金を使う用事もなかったし、契約金やら何やらで貯蓄だけはあったから、勢いで家買っちゃった」 「えっ」  予想しなかった話に陸が驚いていると、入力を終えた観月が、座っている後部座席の陸の隣に戻ってきた。
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