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「陸が気に入ってくれるといいけど」
その言葉にドキンと胸が疼く。もしかして、もしかするのだろうか、期待してもいいのだろうか。
「それは、その、僕も……遊びに行ってもいいのでしょうか」
「だめ」
「えっ」
「君も一緒に住むんだよ。当たり前じゃないか」
思わず、ふぇ、と気の抜けた声を発してしまい、観月の目がまん丸になる。すぐに目元を緩められ、陸の頭をぽんぽんと撫でた。
「今度こそ、二人になれるね、陸」
「は、はひっ」
返事すらままならないことに、一気に顔が赤くなる。どうしよう。嬉しくて体温が急上昇し、ショートしそうだ。
何か違うことを考えて、体温を下げようと思うのに、今度は観月が陸の手をとり、繋いでくる。心なしか、観月の手には汗をかいている。
「いいよ。ショートしても。だって僕が直すから」
「お願いします」
「それに僕だって緊張してるんだから」
観月に耳元で囁かれ、陸はもう全てを諦めた。どうなっても直せる人がいるんだから、いいや。
陸は観月の肩に頭をこてんと乗せ、そのまま車窓に流れる景色をぼんやりと見つめる。こんなにも穏やかな時間を過ごしていいのだろうか。陸の頭に、観月の頭がコツンと当たる。
「着いたら起こして」
「はい」
毎日廃棄アンドロイドを運ぶ日々も悪くはなかったけれど、やはり好きな人が隣にいる幸せはいい。脳内データベースに「観月拓也」で検索すると、たくさんの思い出が脳内に表示される。記録が全て復元されてからは、時々こうして今まで表示されなかった思い出を振り返っている。好きな人のそばで好きな人を想うというのは、なんて贅沢な時間なのだろうか。
無人タクシーが目的地に着くまで、陸は観月の思い出を満喫するのだった。
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