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第10章:二人の新しい世界
タクシーが到着したのは光の自宅に近い住宅地だった。ドアが開いて、降り立った場所には、セキュリティのしっかりした二階建ての一軒家があった。車が置けるスペースもあり、入り口から玄関までは細い通路になっていて両脇には花が植えられている。
「地下も改造する予定だけど、まだ未着手」
「光の家のように開発環境にするのですか?」
「どうかな。考えてない」
先を歩く観月の背中から、本当は考えているのだと思った。しかし、この先、観月がしたいこと、やりたいこと、決めたことに、陸は何があっても着いて行くのだから、内容はどうでもよかった。
扉の前で観月は立ち止まり、陸が隣に立つのを待った。二人、肩を並べたとき観月は、ふー、と息を吐いた。
「ここが僕と陸の家だよ」
「はい」
「思ったより遠回りしてしまったなぁ」
遠回りという言葉に、もしかして観月はもっと早くこうなりたかったのかなと思うと、陸はまた嬉しくてくすぐったい気持ちになる。だめだ、また体温が上がってしまう。
「よし、入るか」
扉の横のプレートに手のひらを合わせると、ガチャ、とロックが外れた音がして、自動扉が横に開いた。陸もその後に続く。
「うわあ」
陸は思わず感嘆の声をあげて、両手に荷物を持ったまま、一階の各部屋を回った。広いリビングに、ソファセット、大きな冷蔵庫に使いやすそうな広々としたキッチン。大きな窓のあるベランダからは裏に続く芝生の庭が一望できる。
ようやく戻ってくるとキッチンでコーヒーの準備をしている観月が「荷物くらい置いたらどうだ」と、陸を見て笑った。
何十年ぶりに観月の笑顔を見て、陸は、ぐっと涙が込み上げてきた。そういえば観月は笑った顔なんて見せたことがなかった。自分を開発している時の、まだ高校生の頃のあどけない笑顔しか、記憶にない。
「いろいろ話したいことがあるから、とりあえず荷物はここに置いて座ろう」
「はい」
陸は大人しく観月に従い、ダイニングキッチンに荷物を置いた。
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