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ソファに二人並んで座る。観月は温かいコーヒー、陸はオイルウォーターをお揃いのマグカップで飲む。二人だけしかいない部屋はとても静かで、時間はゆっくりと過ぎていく。
観月は話したいことがあると言ったが、実はこの一ヶ月、隣にいても、これまでのことを何一つ聞いたりしなかった。まずは観月が無事だったこと、そばにいること、それだけで満足して過去の大変だったことはどうでもよくなっていた。
「ずっと黙ってて悪かった」
最初に切り出したのは観月だった。謝罪する観月に、陸は首を横に振った。
「拓也のことはわかっています。何も言わないのは、言えない理由があるか、考えがあるのか、どちらかだって」
「それでも陸にだけは言ってもよかったなって今は思う」
「たらればの話はやめましょう。僕は今、こうして一緒にいられることで満足しています」
「僕もだよ。全て、こうやって君と一緒に生きていくために必要なことだった」
「僕と?」
観月は照れ臭そうに笑った。
「土井博士と裏コードを作ろうって決めたのは君がきっかけだった」
「僕、ですか」
「博士は気づいてた。僕が君を好きになってしまったことに」
「えっ」
意外な名前が出てきて驚く。
「でも主人と恋愛関係にはなりにくい。どうしても主従関係ができてしまうから」
「それはそうですね」
全てのアンドロイドはマスターを持つこと、マスターの命令をきくことが喜びなのだから。
「だからマスター登録していない相手と一定の関係性を構築することができたら、恋人というステータスに切り替えるというコードを初めて導入したのが陸、君なんだ」
「そうだったんですか」
「そうしたら、君はすぐに僕相手に発動したんだよ」
「えっ」
「博士も驚いてて、当然僕も驚いたけど、嬉しかった。もしかしたら、このコードを導入する前から君は僕のことを好きになってくれたかもしれないだなんて」
「なんか、その恥ずかしいですね」
けど本当に恥ずかしかったのは、自分のステータスよりも、観月が陸を好きになってくれたのが先だという事実だ。
「感度実験がそれより前でよかったよ。もしお互いの気持ちが通じていたら、大変なことになっていた」
「それはそうかもしれないですね」
感度実験の記憶も戻っていたけれど、慌てて陸はその記憶を切り替える。今、思い出すのは得策ではない気がした。
「リコールが決まった時、唯一トニー社にいた陸はすぐに電源が切られて、お別れを告げる前に倉庫に格納された」
「そうでしたね」
その時の記憶はある。そして目を開けたら、大人になった観月がいたのだ。
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