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「あの廃棄の日を迎えるまでに、僕はずっと準備をしていた」
「準備って」
「陸と生きていける世界のことを考えてた」
その言葉に胸がきゅっと締め付けられる。
「僕は賭けをした。十五年ぶりに電源を入れた君が、まだ僕を好きだったら、計画を実行しようと」
「それがあの日、ですか」
「そうだ」
「君がついていくと言ってくれたから、僕はその後、君から僕の記憶をいくつか消した。裏コードの発動条件になるような思い出を消していく作業はとても辛かった」
そうだ。観月が楽しかった思い出を自ら消していったのだ。思い出せない自分の辛さなんて、比じゃないかもしれない。
「廃棄しなければいけないと言われるアンドロイドを救済する、それがキングとの最初の話だった。だから陸を連れていけると思った。でも、彼の思惑は違うところにあった。どんどんハダリーは闇の組織になっていった。自分がアンドロイドを救っていると思っていたのに、あんな計画のために使われることになるなんて、僕は心が弱かったんだと思う」
「拓也」
陸は、頭を抱える観月の手を握る。
「でも陸と一緒に過ごせる世界はここしかなくて、ここにいるしかなくて、僕は変える勇気がなかった」
「……。」
自分と一緒にいることをずっと天秤にかけてくれていただなんて。
「僕が犯した過ちを正してくれるのは君であってほしかった。だから、僕は君の中に停止プログラムを埋め込んだ」
「そういう理由だったのですね」
「でも僕は意地悪だから、君が僕を思い出してくれた時に、停止プログラムのログインができるようにした。ここまで辿り着いてくれるのは、世界で光だけだと思ったし」
「そうですね。そもそも僕の回路も厳重なロックがしてあったと聞きました」
「それは僕の意地だよ。僕は君を誰にも触らせたくないんだから」
つないだ手をぎゅっと握り返される。
「僕は僕の幸せのために、いろんな人を傷つけてしまった。この家を買った残りのお金は、廃棄アンドロイドたちに使ってくれ、と光と直人に預けてある」
「そうなんですね」
「で、僕はもうアンドロイド技師をやめようと思うんだ」
その観月の言葉に驚かなかった。そんなことを言う気がしたからだ。
「もう君だけの僕でいたい。僕の技術は君を直すためだけにあればいい」
「なんですかそれは、まるでプロポーズですね」
「そうだよ。僕にとって君はアンドロイドじゃない。僕の運命の人だ」
見つめられ、自然に顔が近づき、二人はキスをした。
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