プロローグ

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「わかってるよ。俺だってハダリーのことはよく思ってない。できることなら捕まって欲しいと思ってるから、捜査協力のために改造アンドロイドの分析もしてる」 「お前は目の前に拓也さんが現れたら警察に突き出せるか」  直人の問いに、当たり前だ、と強く否定する気持ちがあるはずなのに、その言葉が出てこない。  観月は金に目がくらむ人間ではない。ハダリーに加担しているのなら、理由が知りたい。光は海中廃棄された海を、仕事ではなく、自分の全てをかけて救い出したいと思った。現存しない父の幻のシリーズをこの手で復元したくてトニーエリクトン社を辞めた。直人には最後まで反対されたが、それでも今は後悔していない。 「拓也さんもおまえも、なんでそんなにもアンドロイドに感情移入できるのか、俺にはわからん」 「いや、普通だと思うぜ。おかしいのは、俺たち親子と拓也さんだ」  光がアンドロイド開発に乗り気になれなかったのは感情を持つアンドロイドを世の中が否定したからだ。物心ついた年齢だった光にとって父の仕事を全否定した世間が、敵に思えた。人間のやりたくないこともやってくれるアンドロイドに対して、自分たちが思い通りにならないと廃棄するなんて信じられないと幼心に思ったのだ。  この先、このアンドロイドに対する考え方は誰にも受け入れられないと思っていた。だが、観月はそんな光に「僕もアンドロイドを機械だなんて思ったことはない」と平然と言った。同じ考えだと思った。そんな自分の意思を貫いている観月を見て、自分も自分の意思を通そうと決めたのだ。  光はコーヒーを飲み干したマグカップを机に置き、窓際に立った。窓から差し込む陽の光が暖かい。三月になって長かった冬が終わり、もうすぐ春が来るのだと実感する。  光は空を見上げる。今日は天気が良くて快晴だ。 「拓也さん、今日もどこかでアンドロイドを直してますか?」  この空の下のどこかにいるはずの恩師に届けばいいなと願った。
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