第10章:二人の新しい世界

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「はい、これ開けて」  観月は手のひらに乗りそうなくらいの四角い箱を差し出した。この箱の中には何が入っているのか、全く想像がつかない。陸は、それを両手で受け取り、蓋になっている紙製の箱を持ち上げる。中にはベルベット調の赤いドーム型の丸い入れ物が入っている。もしかして、いや、そんなまさか。陸はちら、と観月の顔を見るが、観月はただ、微笑んでいるだけだ。  箱から赤くて丸い箱を取り出し、陸はひと呼吸置いて、蓋を開けた。 「これは」 「うん、まぁ、そういう意味」  ふかふかのクッションにはまっているそれは、小ぶりのナットだった。観月はそれを指で摘む。 「ほら、左手出して」 「左手って」 「だから、そういう意味って言っただろ」  陸はおずおずと左手を出す。観月はそのまま手をとって、薬指にナットをはめた。指にはめることを想定しているのか、それほどの厚みはない。 「そのネジピアスも気に入ってるみたいだったから」 「拓也からもらえるものはなんだって嬉しいですが、これは、本当にそういう意味ってことでいいのでしょうか」 「ん。陸と結婚しようと思って」  形だけなんだけどね、とベッドに置かれた入れ物を箱に戻しながら観月は答える。まだ整理ができない。アンドロイドと人間が結婚なんてできるはずはない。けれど、形だけとはいえ、こうして指輪まで用意して、本当に観月が自分を大切にしてくれることがわかる。こんな幸せなことがあるだろうか。 「拓也ぁ」 「おいおい、泣くやつがあるか。ほら、おいで」  観月が迎えるように腕を広げてくれたので、陸はその胸に飛び込むようにしがみついた。そして溢れる涙を抑えるように顔を胸に押し付けた。 「だって、こんなに幸せなこと、僕はどうしたら」 「随分待たせちゃったからね。ごめんな」  頭を優しく撫でられて、涙は止まりそうにない。嬉しさが溢れて決壊すると涙になるのだと、陸は初めて知った気がする。 「そろそろ笑ってくれ。僕は君の元気な笑顔が好きなんだ」 「無理ですぅ」 「泣いてる子に、いけないことできないからさ」 「いけないこと?」  腕の中で見上げると観月は不意打ちに、陸にキスをした。 「いい? 久しぶりすぎてあんまり自信ないんだけど」  それが何を意味するのか、わからない陸ではない。陸はそのまま観月の首に手を絡ませ、抱きついた。
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