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最終章:貴方と僕のはなし
とある日の昼下がり、観月と陸は庭に長椅子を運んでいた。
「こっちは逆光だから、家を背にしようか」
「いいですね。家を背景にしたら素敵です」
「いいアイデアだ」
観月に褒められ、陸は、へへっと笑った。
この家に住み始めて二週間ほど経過した。今日は、空と陸とそれぞれの恋人がこの家に遊びに来るのだ。
「拓也さん、クーラーボックス、そろそろ出していいですか?」
「ああ、光、重くないか? 陸手伝ってあげなさい」
「はい」
陸は、重そうに運ぶ光の手元からクーラーボックスを手にとると、軽々しく持ち上げた。
「さすが、工業用だな」
「直人の分も持ちましょうか?」
「いや、これは軽いから大丈夫だ」
直人が運んでいた箱には、グラスやお皿、カトラリーが入っていた。
「あ、着いたみたいです」
陸は空と海の電波をキャッチしたのか、ぱたぱたと玄関へ向かう。インターフォンが鳴る前に扉を開けると、こっちに向かって歩いていた空と海と目が合った。
「陸! 久しぶり!」
「海、元気そうだね!」
「君も元気そうだね」
「空、あいかわらず綺麗だね」
「ふふ、ありがとう」
三人は抱き合って、お互いの額を擦り合わせて、再会を喜んでいる。
「ほら、庭でみんなが待ってるんだろ? 早く行きなさい」
片手に大き目の箱を持った作務衣姿の男性が三人に向かって微笑んでいる。
「和時さん、お久しぶりです。これはピザですか?」
「ああ、僕と空で焼いたんだ。味は保証するよ」
「わあ、僕、運びます」
陸は和時から持っていた箱を受け取った。和時は空の恋人で、光と直人の高校の同級生で、時計職人だ。一度だけ、テレビ会議で話したことがあったが、穏和で優しそうな人だ。
あまり人に懐かないクールな空が大切にしている人だと聞いて、会えるのを楽しみにしていた。
「陸、俺と海からはオイルウォーターの差し入れだ」
「わ、すごいね。これ、かなり上質なやつじゃない?」
白いコスチュームに身を包んだもう一体のアンドロイドが、ボトルを両脇に抱えている。そのラベルを分析すると高級なオイルウォーターで、当然、アンドロイドたちのご褒美だ。
「海、はしゃいで転ぶなよ」
「転ばないよっ、うわっ」
言ってるそばから、海がよろけて空にしがみつく。
「その段差はおまえが苦手な2センチだから、心配していた」
「うう、そんなの分析しないでよぉ」
面倒見のいいアンドロイドは、海の恋人のトキオだ。直人と光が開発した最新型のアンドロイドだと聞いているが、さすが冷静沈着でしっかりしている。どちらかといえば、おっちょこちょいで慌て者の海にはピッタリだ。
わいわいとみんなで家に入り、庭に向かった。
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