第1章:閉鎖された世界

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第1章:閉鎖された世界

「お疲れ様です。腰痛は大丈夫ですか?」 「おう、今朝は調子がいいぜ。ちゃんと休憩して偉いな、陸」  廃棄場から休憩室に戻ってきた中年男性に声をかけると、男はベンチに座っている少年の緑色の髪をポンと撫でた。 「アンドロイドだって休憩が必要だそうです」 「ははは、ここでは人間もアンドロイドも平等に、が鉄則だからな」  陸と呼ばれた、緑色のマッシュヘアーで小柄な少年は旧トニー社が開発した感情を持つアンドロイド『陸海空』シリーズの『陸』だ。廃棄アンドロイドを回収し、選別するという仕事が主であるこの現場では、小柄な見た目のくせに工業用仕様である陸は馬力があり、かなりの戦力になっている。  ここは『アンドロイドと人間は共存するべき』という思想の元で集った慈善事業団体ハダリーは、高額になりがちなアンドロイドの修理を無償で行っており、その修理工場が地下にあることはトップシークレットだ。  この地下の廃棄場には毎日大量の廃棄アンドロイドがトラックで運ばれてきて、陸たちはそれを仕分けする作業をしている。主に力仕事はアンドロイドが担当し、機体の一つ一つの状態と型番を確認するのが人間の担当だ。ここでは人間とアンドロイドが分け隔てなく働いている。  陸のシリーズは感情機能が暴走するという危険性が問題視され、メーカーリコールで全回収対象となっている。他のプロトタイプのうち、陸だけはトニー社の子会社トニーエリクトン社で保管されていたがリコールから十五年後にこの地下へ持ち出され、今に至る。もし発見されれば即廃却処分になるということもあり、この地下で身を潜めて暮らしている。リコール対象の陸が生きていくにはここしかないのだ。そして陸以外にも地上で働けないアンドロイドたちはたくさんいる。 「我々が働く場所があるのはありがたいことですが」 「本当ですね」  陸の隣に座っていたアンドロイド、ペッパーも同調した。  ペッパーはもともと案内係として一躍有名になったアンドロイドで、彼も陸と同じく廃棄されたアンドロイドだ。 「疲労を感じることができれば、もう少し人間に近づけるのかもしれません」  ペッパーと陸の会話に入ってきたもう一体のアンドロイドは、ソルトと呼ばれペッパーの筐体が黒く塗られている同型だ。ソルトはペッパーを不正改造した海賊版にあたり、世の中に出回っている数はペッパーに比べて圧倒的に少ないが、機能は同等で当時はペッパーと同じくらい需要もあった。しかし、どちらも維持費がかかるという理由でだんだん不要となり、ついにはメーカーがサポートを打ち切り、部品保持期間も終わり、大量廃棄された。その中でも二人は特に状態がよかったので、この地下で陸と一緒に働いている。 「金属疲労箇所があれば、私が伝えてあげますよ」 「そうですね、今では周囲のことも言語で伝えられるようになったので便利です」 「そっか、昔はLEDランプとか、定形の音声でしか伝えられなかったんですよね」  ペッパーもソルトも、AIは搭載されていたものの、感情を持ち合わせいなかったが、この地下に流れ着いて、修理される過程で感情の機能を追加された。今では人間ともアンドロイドとも自由に話せるし、こうして世間話もできる。ペッパーとソルトはとても仲良しで、陸は二人の間に入って話をするのが好きだった。 「陸、そういえば君は今日、メンテナンスの予定でしたね?」 「あっ」  ペッパーに指摘され、陸は慌てて体内時計を確認すると、二度のスケジュール通知を自分で停止した記録がある。 「急いだ方がいい。また観月博士に叱られるぞ」 「そうします!」  陸は慌てて立ちあがり、休憩室を出ていく。彼らは笑顔で陸を見送った。
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