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「膝、剥けているな」
観月に指摘され、ふと自分の右膝を見ると、表皮が剥がれ、中の金属が見えてしまっていた。今朝はこんなことはなかったので、さきほどの作業中に捲れたようだ。アンドロイドも人間ほどではないにしろ、痛みも感じるようにできているのだが、気づかなかった。
「警告の通知もありませんでした」
「そうか。神経経路との相性が悪いのかもしれない。このシリーズは非適合に登録しよう」
観月は作業台の隣のパソコンに何かを入力しはじめた。最近の観月の主な仕事は特殊筐体や修繕のためのパーツや部品のデータベースの管理だ。そのため陸の体は観月によって様々なパーツのテストに使われていて、こうした不適合なものを避けるのに役立っている。
「オイルはちゃんと差しているか? 在庫が減っていないようだが」
新たな部品で構成された膝のパーツを装着し、観月はオイルの缶を指差す。
「すみません。調子がいいので、先延ばしにしていました」
「何度も言っているだろう。君の体を構成しているパーツは錆に弱く、替えがきかない。リマインダーも設定しているのに、どうして忘れるのだ」
「気を付けます」
「まったく」
このすみません、という言葉に謝罪の気持ちはかけらもない。なぜなら、オイルを自分で差さないのは陸があえてそうしているからだ。
観月が持っているオイルの匂いから、陸の脳内ディスプレイに成分が表示される。三年ほど前の有効期限ぎりぎりの古いオイルだが、そんなことは陸にとってはどうでもいい。
「腕あげるぞ」
「はい」
観月は陸の腕の皮膚をめくり、肘の関節が結合する場所にオイルを垂らし、陸の腕を持ち上げ、オイルが馴染むように淡々と腕を動かす。
陸は観月が作ったからなのか、観月がメンテナンスをするのは陸だけだ。この限られた二人の時間が陸は何より楽しみだった。
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