第1章:閉鎖された世界

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「それでそのときペッパーが……」 「終わったぞ」 「え、もうですか?」  時計を見ると、この部屋に来てからすでに二時間ほど経過していた。メンテナンスの間は、観月に陸が一方的に話をすることが多い。最近あった現場での面白いこと、アンドロイドたちとの会話、自分ではおもしろおかしく話しているのだが、あまり感情豊かではない観月は、特に反応することなく淡々と聞いている。以前、聞きたくないのかと思い、黙っていたら『今日は得意のおしゃべりはしないのか』と聞かれ、どうやら迷惑ではないらしい。 「よいしょ」  陸は診察台から降りて、自分の体を拭くための布を手にとった。 「顔、拭いてやろうか」 「お願いします」  陸は手に取った、やや黄ばんだ布を観月に手渡した。  観月は陸の顔を丁寧に拭く。真剣な表情の観月の顔を陸は、じっと見つめる。 ――本当に僕と同じ顔だ。  陸の顔は、高校時代の観月の顔を型にしてできている。陸海空シリーズの創始者である土井光之博士が、当時、高校生でありながら開発に加わっていた観月の顔を見て、陸の顔のベースとして採用した。  観月が自分の顔を見るとき、どんな思いで見ているのだろうと思う。すぐ目の前に、一生懸命顔を拭いてくれる観月の顔がある。普段、観月の顔を正面から見ることがないので、ここぞとばかりに見つめる。  出会った頃はまだ高校生だった観月は四十を過ぎて、すっかり大人の男になった。最近は髭を剃るのがめんどくさいと、無精ひげを生やしているけれど、きっと身なりを整えれば、童顔気味の愛らしい顔が現れるはずだが、特に代わり映えのない毎日の地下では難しいだろう。  この先、そんな観月に会えることはあるのだろうか。
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