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一也は学校に通う。今日は洋介が教室にいた。洋介も一也と同じグループだ。机の上にはティッシュ箱が。机の中には薬が入っているのが見える。喘息だと洋介は言っていた。だから洋介がマスクを外す時は食事の際くらいだ。
キーンコーンカーンコーン。先生がチャイムと同時にやって来ない。どうしたのだろうと思っていると汗をかいて先生が教室に駆け込んできた。
「はい。みんな席に着いて!はあ……」
「え〜、もう?早っ」
「うわ、今日、俺日直じゃん。だりー」
今日もクラスは活気に溢れている。みんな話す事に夢中で先生が遅れた事に気付いてもいない。お陰で先生は生徒からの集中砲火を受けずに済んだようだ。
今日は注意されまいと一也は本を読んでいない。学習能力は少なからずあるのだ。
「本を読むのを止めような!洋、聞こえているか?」
一也は小さく舌打ちをする。差別差別って騒いでるけど、先生だって洋介と俺との対応が違うじゃん、そう思っていた。先生は矛盾が多い生き物だ。一也は屁理屈ばっかりと言われてしまう事が多々ある。何故か物事を正面から受け止めれないのだ。だから、受け流すか、背中で受け止めるか。そうすると人は自然にひん曲がっていくのだ。
「……これで朝の会終わります。起立、あしたぁ」
日直が怠そうに早口で朝の会を終える。その直後だった。一人の女子生徒が先生に言ったのだ。
「エイ先生、どうして今日遅れたんですか?」
すると、クラスは一瞬静寂に包まれ、次の一声はそうだよ、そうだ、と同意の声だった。先生はあっという間に窮地に立たされてしまった。なんと惨めだろう、と一也は思った。が、その後、一也の頭に入ってきたエイ先生の言葉でその邪心は覆い隠された。
「寝坊しちゃって……一寸先は闇だ!って感じで。ああ、学校に遅れてしまうって思って頑張って走ってきたんだよ。まあ、失敗は誰にでもあるから仕方ない」
一也の頭を埋めたのは寝坊と闇。一也は最近の出来事を思い出す。洋介が夢で魘され、寝坊していた。一也たちが最初に見た夢は暗いところ。確信に繋がる言葉は無いが、寝坊は濁した。闇は示唆。そうとしか思えなくなった。ただ、それが頭に埋まってすぐ無くならなかったのには理由がある。そう、洋介と同じタイミングで目があったのだ。一也にはその目は『多分、そうだよな?』と訴え掛けているようにしか見えなかった……。
一也たちは英先生に、絶対に訊こうと思った。もし違っても先生なら笑って流してくれるから。何の損も無いと判断したからだ。だから一也たちは放課後先生が一人になったタイミングを見計らって、話しかけたのだった……。
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