6人が本棚に入れています
本棚に追加
一也は学校に着くまでの間は頭がぼんやりしていたが、誠二や洋介に会って、元気になった。お陰で誰にも体調の異変を知られる事なく学校を過ごした。
✳︎
放課後、職員室にあの人を呼びに行った。今日は部活があるから、と誠二はいないし、洋介は早退した。サッカー部に一也も行けば良かったが、どうせレギュラーじゃないと週二でしか行っていない。
今日は英先生は他の学校に通っている息子の三者面談でいない。だから一也、一人きりだ。
「二年五組、佐藤一也です。五月先生はいらっしゃいますか?」
「五月先生は一年のクラスにいると思うよ」
教頭先生が問いかけに応えてくれる。
「あ、そうですか。ありがとうございます。失礼しました」
キチッと扉を閉めて一学年に向かう。
一学年の教室は反対側の棟にある。至って普通の『口』の形をした学校だ。下が体育館、上が生徒玄関で左右は教室棟だ。一也は今、右側の一学年教室のある棟にやってきた。
六組、五組、四組と順に見ていくとガタッと一学年室の方から音が聞こえた。一学年室は空き教室になっている。そんなところで何をしているんだ、と一也は思いながら一学年室に辿り着いた。そこにはカッカッとチョークと黒板の擦れる音が聞こえた。黒板には数字と記号がびっしり書かれていた。それを書いている本人は夢中になっているのか一也に気付いていなかった。見かねた一也は彼女に声を掛ける。すると彼女はこちらを向いてああ、ごめんなさい。気付かなくって、と言った。眼鏡を掛けていて世に言う地味な人だ。しかし、一学年の階には彼女しかいない。一也はこの人がそうか、と思い尋ねた。
「もしかして五月先生ですか?」
「え、ええ。みんなにはみどり先生って言われているから少し反応が遅れちゃった……数学教師失格だあ……あ、これからはみどり先生って呼んでね。えーっと、君は誰かな?」
小声で心の中の声が出てしまっている。
「二年の佐藤一也です。英先生、いやシキさんの紹介で会いに来ました」
シキさんの方なら嘘じゃないと分かると思い言い直す。
「シキ……ああ、君が!よく来たね。もう一人の洋介くんはどうしたのかな?」
「部活に励んでいると思います」
「ああ、そっか。逆に君がここにいることの方がおかしいのね」
その後も当たり障りのない会話を続け、今日も部活には行かず学校を後にした。下校中に誠二と洋介にこの事を話した。みどり先生と呼んで、と言っていた事も。
最初のコメントを投稿しよう!