一、始まりの夢は……?

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一、始まりの夢は……?

 一也(かずや)は今、自宅のリビングで夕食を食べている。生姜焼きにご飯の最強の組み合わせを堪能中だ。肉を口の中に放り込み、ご飯を掻き込む。美味い。肉の油とタレ、そこにベストマッチの米を合わせる。止まらない。箸をテキパキと動かし食べる。最初の方こそ味を堪能していたが、食べ進めるにつれて味を感じなくなってきた。慣れてきたのだ。一也は生姜焼きに追いタレする。そしてまた食べ始める。一也はこの時ぼーっとしている。最後まで集中して食べる人なんて食のプロくらいだろう。 「ごちですっと」  一也は食べ終わった皿を流しに持っていく。そこには皿を洗う母がいる。家は家族四人暮らしだ。男女比一対一の家だ。父は出張で海外に渡航している。まだ帰ってくるまでは二年程掛かるだろう。下から十三、三十四、三十六、七十、七十五だ。昔は動物を飼っていたが八歳の時に亡くなってしまった。  一也は自室に戻り鍵を閉め暗闇でパソコンを起動した。ウィーンという音と一緒に青白い光が部屋に溢れる。一也はファイルを移動させる。キーボードのタイピング音、マウスのクリック音だけが一也の耳に届く。  それから暫くして一也は動画を見始めた。画面に映っていたのはサッカーの試合だった。一也は中学校でサッカー部に所属している。中学から始めたので、まだあまり慣れていない。前までは観てるだけだったが、今はフィールドで貢献出来る……訳もなく、夢みている。 「ふああぁ」  試合が終わり時計を見ると十二時になろうとしていた。起きている日は三時頃まで起きていられる事もあるが、それは珈琲(コーヒー)を飲んだ夜の話。  今日はもう寝ようと思い、歯を磨きに自室から出て階段を降りる。もう家族で起きている人は一也、一人だ。  電気を点け、歯を磨く。シャカシャカとリズミカルに音を立てる。ガラガラと嗽をして歯ブラシを片付ける。世界は音に溢れていると一人になった時思う。耳を澄ませば遠くの方で消防車のサイレンが聞こえる。雨音がする。自分の鼓動が聞こえる。普段気にしない音が耳に入る。多くの音が一斉に一也の耳に入り大合唱を(かな)でる。 「ふあああぁぁ」  さっきよりも長い欠伸(あくび)で引き戻される。もう目を開けているので精一杯だ。そう言えばあの日も、眠気が強かったっけな……。
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