一、始まりの夢は……?

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               ✳︎ 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」  息切れが止まらない。背中は冷や汗でひんやりと冷たい。布団の中は足汗で少し汗臭くなっていた。嫌な夢を見た。あんな夢など忘れたい。でも選りに選って覚えているとは。今日はもう寝る気が全くしない。身体が眠るのは駄目だと訴えているようだ。 「はぁ……ふう。はぁ……ふう」  一也は呼吸を整わせる。そして呼吸が整ったあと冷蔵庫から冷えた水を取り出し一気に飲む。水が喉を、食道を通っていくのが冷たさで分かる。胃に到達したか、してないかの時に背中の汗が乾いて鳥肌が立った。身体は反射的にびくりと動く。  一也は夢で起きたことを思い返す。すると、明らかな異変があった。祖母以外の家族が誰一人として夜に家にいなかった事。鍵は開いているはずなのに謎の生物が玄関から来なかった事。祖父の手を取った事。そして家の外の様子がはっきりと見えたことだ。  夢は不可解な事が起きても気付かないんだと分かった。恐らく夢の世界には脳の全てがいける訳では無いのだろう。  ミシ。一也は吃驚(びっくり)したが直ぐに冷静さを取り戻し家鳴(やな)りだと悟る。昔は家鳴りも怪奇現象だと言われてたそうだ。仕方が無い。この家は築年数で軽く還暦を超えている。なので家の一部は完全改装をしてある。  一也は普段起きる七時より二時間早く目覚めてしまった。一也は充電が赤色になった携帯に充電器を挿しながら(いじ)る。最初は観たい動画を見て時間を潰していたが目が疲れてきたので止めた。久々に運動するかと思い部屋着から着替える。  玄関を開ける時、夢の事が脳裏を過ぎったが、玄関を開けた瞬間、その思考は自分の身体の中から抜けていった。  外が涼しい。朝日は東の方に出でて一也と町を照らす。正面の道路に顔を向けると犬の散歩をしている人や朝の散歩をしている人がいた。子供の姿は一也、一人だけだ。  一也は運動が得意とは言えないが毎日運動する事を意識している。それは適度な運動をしないと将来的に健康じゃなくなると母に言われたからだ。母は本当なのか分からない絶妙な話を良く持ち掛けてくる。結構楽しい母親だ。  もうそろそろ七時だ。家に帰ろう。
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