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一也が家に戻るとご飯が用意されていた。
「おはよう。あら、今日は珍しい」
祖母がいつも朝が弱い一也が起きている事が気になったようだ。
「いや、なんか早く目覚めただけ」
一也は誤魔化す。悪い夢を見たからなんて言った日には笑われてしまうかも、と恐怖心が煽ってくるのだ。それが一也は癖になってしまっている。
「茶!」
一也は外に運動してきたせいか、喉が渇いたようだった。用意されたお茶を一気に飲んで二杯目をコップに注ぐ。朝は牛乳を飲むのが普通なのにお茶を注いでいる。二杯目を飲む。コップの半分程残してご飯を食べる。ご飯はフレンチトースト、菠薐草、ソーセージに林檎、ヨーグルト。朝は食欲があまり無いので少なめに食べている。少しくらい多くても良いが、食べると必ずと言って良いほど授業中にトイレに駆け込む事になるからだ。しかし最近成長期が来たのか、食べる量が少しばかり増えた気がする。
一也は朝食を食べ終え、歯磨きへと移る。いつもと変わり映えの無い風景、行動。いつの間にか身体に定着していく。別の事を考えていても、ぼーっとしていても出来るようになっている。
「ヘックション!」
祖父の五月蝿い嚔が洗面所にまで響く。その声が聞こえた後に祖母が祖父に向かっての文句を小声で言っている。祖父は少し前まで祖母の文句が聞こえて無かったので、家族は加齢性難聴だ、耳が遠くなっただの言っていた。だがここ最近は祖母の文句を聞き取れるようになってきている。祖父の耳は天国には行けず、地獄に向かっているようだ。
今日は早く寝て早く起きたから欠伸の回数が少ない。早起きは三文の徳と言うが一也は百文の徳をしたかのように幸福感に満ちていた。夢の事などもう頭から巣立ったようだ。
「行ってきます!」
一也は清々しい気持ちで学校に登校した。今日は学校なのでニキロ程歩いて向かう。一也は手に持っている鞄から一冊の本を取り出し歩きスマホならぬ歩き読書を始める。
過去に二度、下校中に歩き読書をしていると二宮金次郎さんかね、と声を掛けてくる老人がいた。一也はそれだけ本が好きなのだ。
一也は本の世界に入り込んでしまったようで横断歩道付近の交通量の多い所までは本から目を離すことは無かった。
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