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プロローグ
コンポにセットしたCDがゆっくりと反応する。すぐに疾走感のある心地よい旋律が部屋を満たして俺を包み込んだ。
続いて響くのは、男の色気が漂う低音の美声。
何度聴いてもいい声だな…
俺は思わず目を閉じる。
初夏のきらきらとした日差しとか、真っ青な空とか、海から吹く潮の香りがする風とか…
そういったものを感じさせる曲だ。
閉じていた目を開け、俺はしみじみとしながら、歌詞カードを手に取った。
曲のタイトルは『CeruleanBlue』(セルリアンブルー)。
俺がマスターを務めるカフェと同じ名前のこの曲は、ロックバンドMonochrome(モノクローム)のサードアルバムに収録されている。今日、この出来たてのアルバムを届けてくれた男、桧山涼が作詞作曲した曲だ。
俺は歌詞カードに綴られた歌詞を目で追いながら、耳を傾けた。紙面に並ぶ文字がMonochromeのボーカル桧山涼の歌声となって生を帯びる。
♬罪な笑顔に跪いても
俺だけの笑顔にはできやしない
その心にいるのは誰?
その唇に触れられるのは誰?
お前のサインを探してた
セルリアンブルーの海のように
お前の心も透けて見えたら
思い出のセルリアンブルー
俺だけのセルリアンブルー
あの日のセルリアンブルー
苦しいほどに独り占めしたい
苦しいほどにお前しかいらない
涼のヤツ…
あの頃の恋を、こんな名曲にしやがって。
俺は小さくほくそ笑む。
この『CeruleanBlue』に描かれている恋を、俺はカフェ「セルリアンブルー」で見守ってきた。
甘酸っぱい初恋は、今流れているこの曲に負けないくらいきらきらと眩しくて切ない、唯一無二の恋だった。
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