第二章

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第二章

落ち着かない。 別に時間に追われているわけでも、誰かを待っているわけでもないのに、俺はそわそわしていた。もう、かれこれ一時間くらいこんな調子だ。 「涼は、もう、歌ってるかな…」 テーブル席を片付けてカウンター内に戻ってきた姉の玲子が、コーヒーカップをシンクに置きながら言った。 「うん…」 そう。その通りだ。 涼は今頃、ライヴハウスのステージに立って、マイクを握っているはずだ。 そしてそれこそ俺が今、そわそわしている理由だった。 「ヒデさん。勝負してくる。」 昨日ここで聞いた涼の声が、俺の中で熱く響く。 涼がMonochrome(モノクローム)というロックバンドのボーカルとして歌い始めたのは、彼が高校に入学して初めての夏が到来した頃だった。 音楽という打ち込めるものを見つけた涼は、その目に再び力を宿し、俺がよく知る桧山涼に戻っていった。 高校に入学した頃の涼は、本当に見るに堪えないという表現を忠実に再現しているとしか思えない有り様で、俺はどうしたものかといつも胸を痛めていた。 胸は痛むが俺にしてやれることなど何もない。 涼を救えるのはこの世でただ一人、藍原美夜だけだ。 初めて本気で惚れた女である美夜ちゃんをあきらめ、彼女に会えなくなり、涼は日に日に荒んでいった。 喧嘩や夜遊びは元からだったのだろうが、それに加えて尻軽女たちの誘いに片っ端から応じ、相当、節操のない生活を送っているのが俺にもわかるほどだった。 まるで、自分にはこういう気持ちのない付き合いがお似合いだと言い聞かせているようで、痛々しいとしか言い様がない。 そうでもしないと自分を保てない。 淋しすぎて苦しくて、それしか気を紛らわす術がない。 そんな涼の追い詰められた心が透けて見えたから、俺は何も言えなかった。 喧嘩で勝っても、バイクを乗り回しても、心など晴れやしない。どんなに好きでもない女を抱いたって、涼が救われることはない。 そうわかっていたけれど、俺はただ見守ることしかできなかった。 こういうことは自分で気付かなければ、そこから這い上がることはできやしない。
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