第二章

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いつまでこんな生活を続けるのだろうか。 涼だってわかっているはずだ。美夜ちゃんのことを忘れるどころか、思い出にすらできそうもないってことに。 俺は知っている。涼のベルトループには、細いチェーンにくぐらせた美夜ちゃんの制服のボタンがいつもぶら下がっていることを。 早く気付けよ、涼。お前がやるべき事は、違うだろ。 そんな俺の心の声がやっと涼に届いたのは、七月に入った頃だった。 「バンドのボーカルをやることになった。」 突然、美声が発した報告に俺は目が点になる。 「は?どうした、いきなり…」 スカウトでもされたか? そうか。そうだよな。こんな男前が歩いてたら、いくらこの長閑(のどか)な町であっても芸能界の関係者だって声をかけるだろう。 そう納得しかけたが、涼はあっさり「友達に誘われた。」と俺の妄想を蹴散らした。 「涼。お前、歌なんて歌えるのか?」 すると、涼がふっと小さく笑う。 なんだ? どうした? その優しさが漏れてる笑いは。 「藍原に褒められたことがある。俺は歌で食っていけるってさ。」 久しぶりに涼の口から「藍原」という名前が飛び出し、俺の心がぎゅっと何かにつかまれた。 「美夜ちゃんのお墨付きなんて、いつ、もらったんだよ?」 涼はすぐには答えなかった。 その目がどこか遠くを見るものに変わり、涼の心も頭も美夜ちゃんで埋め尽くされていることが伝わってくる。 「藍原が弾くピアノに合わせて、ビリー・ジョエルの『Honesty』を歌ったことがある。」 「音楽の授業…じゃないよな?」 涼に「当たり前だろ。」と鼻で笑われた。 相変わらず、失礼なヤツだな。 「藍原は、よく、誰もいない朝の音楽室でピアノを弾いてた。俺がリクエストした『Honesty』も弾いてくれたんだ。」 涼の口からそっと語られる思い出が、俺の脳裏で映像化される。 朝の澄んだ空気が流れる音楽室。グランドピアノを弾く美夜ちゃん。その横で、彼女を眩しそうに見つめる涼。 学ランとセーラー服姿の美男美女で完璧だ。もう、これ、青春映画のワンシーンじゃないのか。 そこで流れるのがビリー・ジョエルの『Honesty』って出来過ぎだろ。
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