年度初め

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年度初め

「みたいなことがあったら、面白そうじゃない!?」  目をキラキラさせて話す、制服姿の少女は、公園のベンチに座っていた。その隣にいる友人と思しき少女の顔は、対照的に無であった。 「みたいって何?」  視線だけ友人に向けて、問う。 「ずっと何も言わないでニヤニヤしてたかと思えば、いきなり『面白そうじゃない?』って何が?」 「あれ? 私、何も言ってなかった? あのね――」 「いや、いい! 言わなくていい!」  あわててその先を止めた。 「何で止めるのよ」 「長くなるのが目に見えてるから」 「いや……季節たちが、1年の予定を話し合ってたら面白いなって思ってたの」 「?」  さっぱりわからないが、ここで話を掘り下げたら負けと思った友人、特にコメントはしないことにした。 「ハクション!」  コメントの代わりに、くしゃみが出た。 「花粉症じゃない?」 「違う! 断じて違う! 私は認めないぞ」 「認めた方が楽だよ~」  そう言って笑う彼女も、花粉症である。 「……」  会話が切れた。  ちらほらと人の散らばる春の公園で、ベンチに座ってのんびりする女子高生たち。  空につられて見上げれば、満開の桜に目を奪われる。 「春だなあ」 「春だねえ」  ぽけーっとしていた頬に、ふいに温かい風が吹きつけた。 「うおうっ」  少しばかり砂ぼこりを巻き込んだ風に、女子高生たちは目を瞬いた。 「風が温かいなあ」 「南風だね」 「うん、冬の風とは全然違う」 「春だなあ」 「春だねえ」  同じ会話を繰り返す2人。  気候を感じるときに、余計な言葉はいらない。  目を細め、空を見上げ、風と太陽の温かさだけを、体いっぱいに触れていれば。  ほわんと溶けた表情の少女たちを、少し離れたところから見ている女性。 「これこれ、人間たちが季節を感じる顔。これが好きなんだよねえ」  だから、四季はやめられない。  ふふっと笑ったら、重いボブヘアの髪がさわっと動いた。 〜Fin.〜
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