過去への扉2

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「どうして浮かんでいるのでしょうか」 驚かずに普通に質問してくる蒼井に対して天ヶ瀬はこう答えた。 「それはここが6次元だから。私たちが今いる6次元から下に広がる3次元の様子は見えるけど、3次元側からは見えないんだ。もちろんこちらの気配は一才感知されない。監視するにはもってこいの余剰次元ってやつかな」 天ヶ瀬は無駄に綺麗な笑顔でそんな分かるような分からないような説明を始めた。 「私たちがいるこの空間は6畳位の広さがあるけど、うーん…… 今ではあまり見かけなくなった電話ボックス位の大きさまで小さくできるんだ。もっと大きくすることもできるけど、移動するのにはちょっと不便だからこれぐらいまでが限度かな。例えて言うなら大きくて丈夫な風船みたいなもんさ」 天ヶ瀬の説明を聞いた蒼井はその内容を半分も理解できなかった……というよりこれまで常識だと思っていた自分の概念との違いから全てを受け止めるには少々時間が必要だった。 それでも1つ蒼井にとって嬉しい誤算があった。 この余剰次元の中から見下ろす世界には沢山の人がいて、その世界の発する音は聞こえてくるのに人々の心の声は一切聞こえて来ないことだった。 いつもならかなり離れていても、叫び声のような非常に強い心の声は否応なしに聞こえてくるのにそれすらも聞こえてこないことは精神衛生上とてもありがたい状態だった。  少し難しい顔をした蒼井の前に、急に真剣な顔をした天ヶ瀬が蒼井の目をまっすぐ見据えて話してきた。 「えーと、蒼井くんに1つだけ約束して欲しいことがあります」 「1つだけ、ですか」 「はい、1つだけです。これから監視を始めますが対象者に対して決して何も手出しはしないで下さい。いかなる状況に置かれていても助けるような行為はもちろん禁止します」 天ヶ瀬は心の中で『助けられたらですがね』と呟いていた。 「助けるのもダメなんですか?」 「私たち監視者が手を出す時があるとすれば、それこそ次元が消滅するような緊急事態の時だけです。ですので決して対象者の行動に干渉してはいけないのです。場合によっては消滅すら見届ける時もあります。彼らの行動の責任は彼らにあるのですから」 「えっ! 次元が消えることがあるんですか? 監視者は本当に見ているだけなんですか?」 「そういうことです。では蒼井くん、このまま鮫島李花の監視に向かっても大丈夫ですか?」 「えーっと、はい、多分大丈夫……です。それに僕にできることなんて、何もないですし……」 「では、鮫島李花のところへ行きましょうか」
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