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彼女の他に誰も乗っていないエレベーターが12階で止まり彼女はゆっくりと目的の会社へと向かった。そのフロアーは地上から離れた12階にありながらショールームのようにガラス張りの空間を持つ会社ばかりのあるフロアだった。
鮫島李花が向かったのはリームという名の会社で輸入食器やカトラリー、ガラス製品などといった主に食器類を扱う商社だった。日本の伝統工芸品を海外へ紹介することもある現在進行形で成長中の若い会社だ。
リームは鮫島李花の兄である鮫島潤一が社長の会社で、彼女の目的であり兄の片腕と言われる本城幹彦がいる会社だ。
本城は凄腕の営業マンであるだけでなく、五カ国語も話すマルチリンガルである。海外との取引の時、現地での流暢な話し方は相手に好感を与える。長身でスッキリ系のイケメン、そして柔らかな人当たりで人脈作りに長けた優秀な社員。
それに加えて彼の凄いところは、女性だけでなく男性にも人気があるところだ。
惚れっぽい鮫島李花は偶然彼を見かけたその瞬間、ひと目で気に入ってしまった。それからは用もないのにリームを訪れては、無駄にカトラリーやガラス製品を買った。
またある時は本城しか買い付けに行けない地域の商品が欠品中であるにも関わらず直ぐに欲しいと我儘を言いだした。そして会長の娘という立場をチラつかせ急いで海外へ仕入れに行くように仕向けていた。
もちろんただ仕向けるだけでなく、滞在先や立ち回り先の詳細を知るために鮫島グループの役員という特権をフル活用してその情報を入手。
そしてさも仕事でこれから取引する現地法人の視察に行くかの如く、本城の乗る飛行機と同じ便のファーストクラスの予約までして彼を追いかけていた。
恐ろしい執念である。グループ社員の移動はエコノミーかビジネスクラスだけでファーストクラスの利用は認められていない。セキュリティの関係上必要な、会長以外は。それ以外でファースクラスの使用が認められるのは、緊急事態の時だけである。
鮫島李花はその緊急事態を悪用してファーストクラスで尾行していた。鮫島グループにとっては迷惑この上ない役員である。
海外で育った本城は日本人の男に比べて格段に女性の扱いが丁寧でエスコートする仕草も嫌味がない。誰に対しても一定以上の態度で接しているのだが、それを知らない、いや認めない鮫島李花は自分だけは特別だと勝手に思い込んでいた。
決して気のある素振りを見せていない本城にとっては誠に大変迷惑な話である。
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