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行動開始2
次元監視者として6次元にいた天ヶ瀬と蒼井は本庄の居るレストランの窓の近くから鮫島李花を観察していた。女の視線の先には天ヶ瀬のよく知る本庄幹彦が少し遅めの昼食を取っていた。本城幹彦はレストラン・ブルーローズのソムリエ本城秀徳の弟なのだ。
鮫島李花は本城の方を後ろ斜め45度の辺りの席から凝視している。注文したケーキセットには一口も手をつけていない。
そして本城が左手をウエイターを呼ぶために顔の横に上げたのをじっと見ていた。
「よかった、間に合ったわ……」
本城幹彦の左手薬指には今は何もなかった。
離れた距離から観察していた蒼井は有り得ない距離から聞こえた声に妙な違和感を感じていた。
「天ヶ瀬さん、監視対象者からこんなに離れているのに、話し声が聞こえた気がするんですけど、この6次元って場所はどうなってるんですか?」
「離れた場所からただ見ているだけじゃ何やっているのか分からないでしょ? 声が聞こえればある程度監視対象が何をしているか分かるしね。異次元である6次元には何か大きな力が働いてるってことで良いかな。まあ後は九条さんのおかげってことにしといて」
「あのう……、九条さんは何者なんですか?」
「まぁ…… そのうち分かるようになるよ、多分」
答えをはぐらかす天ヶ瀬はこの不思議な現象を説明するつもりが無いことを、蒼井は悟った。今は取り敢えず九条のことは考えるのはやめて、事の成り行きを見守ることに徹した。6次元という余剰次元で体をふわふわとその辺に漂わせたままで。
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