ベルの音

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扉を潜り光のカーテンを抜けると、なぜかそこは鮫島商事の向かい側にあるコーヒーショップの前だった。 「彼は会社に居るかしら。それにここは彼が結婚する前の時間なのかしら? ちゃんと調べないと」 他人の目を気にすることなくボソボソと独り言をこぼしながらコーヒーショップの中へと入っていった。 注文したブレンドコーヒーを飲みながらスマホを出して日付を確認すると、そこには10月20日と表示されていた。電波時計ではないスマホはタイムトラベルに自動対応している訳ではないようだ。 少しがっかりした鮫島李花は、ニュースアプリを開き今いる場所の日付を確認することにした。 すると画面には4月24日と表示されていた。もうすぐゴールデンウィークが来ると見出しにも書いてある。 望み通りの日付に移動できたことにテーブルの上で思わず小さくガッツポーズを作るとホッとしたのかお腹も空いてきたようだった。個人のスマホ端末から席に備え付けてある店のタブレットに買いたい商品の支払い完了データを送り席に商品が来るのを待った。 程なくしてワゴンに乗ったサンドイッチが届いた。受け取ると電子音ではなく人の声が聞こえた。 「ありがとうございます」 モニター越しに作り手である店主の声が笑顔と共に流れるとワゴンは自動運転でカウンターへと帰っていった。 店にとっては経費削減にもなるこの方法は、必要以上に人との触れ合いを求めない客にも受け入れられるようになった。いちいち席を立たなくても良いこともあり数年前から世の中に浸透したシステムだ。 空腹を満たした鮫島李花は手鏡で自分の顔を見てから店を出た。そして人混みに紛れるように目的の人物がいる鮫島商事のビルへと向かって歩き出した。
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