過去への扉1

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「高原の別荘借り切ってピアノの生演奏頼まれたあれですか? 確か二人とも何ヵ国語も話せる人たちでしたよね。とっても素敵で絵になる様なお二人でしたね」 「そう、お似合いの二人だったでしょ?」 九条と蒼井は本城幹彦(ほんじょうみきひこ)美里(みさと)夫妻のことを脳裏に浮かべ、落ち着いて良いパーティーだったことを思い出していた。 二次会のような結婚披露パーティーとは別に、親族との食事会は当初ささやかにする予定だった。それが何故か超一流ホテルの小さくないバンケットルームを貸切る豪華なメニューの食事会へと変わっていた。 中でも透き通るようなイエローゴールドでキラキラ輝くコンソメスープや、ボリューム満点なのにサーブされると美しくさが際立つ牛フィレ肉とフォアグラのパイの包み焼きが絶品だったと親族は大喜びだった。 なんでも久し振りに日本に帰国した両親が張り切ってしまったと二人は話していた。 「古くからの友人がホテルの支配人だから顔を見せたい」 いち庶民とは思えないセリフを言ったとか言わないとか。 その後高原の別荘を借り切って行われた結婚披露パーティーは友人や親しい人たちだけを集めたので変に気を使うことなく、空気の良いところで伸び伸びと過ごせたようだった。 リクエストされた曲はクラシックの名曲からロックのアレンジまでとにかく幅が広かった。和やかな会場内はどの曲が流れても特に雰囲気が変わるようなことはなかった。 「でもどうして本城さん普通に仕事してたんですか、ブルーローズの従業員として。新郎の兄はもっと他にやることがあるような気がするんですが」 「実は以前二人がブルーローズに来たときに、『ソムリエ姿のお兄さん素敵!』って新婦さんに言われたのが嬉しかったらしくて、密かにカッコいいとこ見せたかったみたいなんだ。だから良かったんじゃないかな」 「でもなんでそれがさっき過去へ行った女の人に繋がるんですか?」 これまでとは一転、急に九条が真面目な顔をした。 「鮫島李花は本城の弟である本城幹彦のことが好きなんだ、現在進行形で。だから何かやらかしに過去へ行ったんじゃないのかな」 「えっ…… 大丈夫なんですか、そんな人過去に行かせて」 それを聞いた九条はただ意味ありげに口元を緩めた。
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