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『うーん…… きっと大丈夫じゃないと思うよ』と九条は心の中でだけつぶやいた。
しかし蒼井静佳は九条の心の声を聞き取ることはできない。
蒼井は意味ありげな九条の発言の意図を知りたいのに、なぜか彼の心の声だけは聞こえない。レストラン・ブルーローズのオーナーでディメンションの店主でもある九条薫は蒼井にとって摩訶不思議な存在だった。
一瞬、口角を上げた九条が蒼井に尋ねた。
「さっきの客が過去で何をするのか知りたくない?」
「そんなことできるんですか? 探偵でも雇うわけじゃないですよね?」
『過去に行ったのにどうやって探るのだろう?』
「探偵は雇わないけど、蒼井くんも過去に行ってさっきの客の近くで何をするか見てみない? もちろん身の安全はある程度は保証するよ」
蒼井は『身の安全はある程度は保証する』という言葉に引っ掛かりを覚えたが、面白そうなので話に乗ることにした。
「安全なら見たいですけど、覗き見するようでちょっと嫌な感じがあります」
『ある程度の安全ってどれくらいのこと言っているんだろう、大丈夫なのかな』
「覗き見じゃなくて、次元の監視だよ」
「次元の監視なんて……。僕にそんな大それた事できるんでしょうか……ある程度じゃなくてちゃんと安全に帰ってこられる保証があるなら行ってもいいです。九条さん本当のところどうなんですか? 単なる人手不足じゃないですよね」
『本当に人手不足じゃないのか? 誰にでもできることなのか?』
「色々と心配しているようだけど人手不足ではないよ、君のやる気次第かな。それと監視者として過去へ行ってもらうのだから必ず今いる場所へ帰ってこられるし何かあれば必ず助けに行く。それは約束するよ。それに過去に行って監視をできるのは限られた人だけなんだよ」
いつも何を考えているのか分からないところのある九条薫だが、今日はいつも以上に何を考えているのか蒼井静佳には皆目見当も付かなかった。
「それと君、困っていることがあるよね。人の心の声が聞こえるなんて気味悪がられるから絶対に他の人に明かすことができない。誰にも話すことのできないそれは、もう随分前から君がたった一人で抱えている秘密。
監視者として仕事をすることで、それから解放されるとしたらどうする? 君次第ではその力をコントロールすることだって可能なはずだよ。どう、解放されたいだろう」
九条は薄ら微笑んで蒼井の目をじっと見つめた。
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